popoのブログ

超短編(ショートショート)

ベンチ

駅前のベンチ

みんなからしたら普通の場所も

私にとっては大切な場所。

 

それは私がまだ高校生の

少し風が冷たくなった頃だった。

「お!水嶋じゃん。」

「あ。武田くん。」

「こんなとこ座って何してるの?」

「別に何も。」

その日はひとりになりたい気分だった。

「これみてよ!」

「何?動画?」

タイトルはネコと赤ちゃんの戦い。

撫でようとする赤ちゃん。

何かされるのかと振り払うネコ。

互いに激しさを増していく。

「めちゃくちゃ可愛くね?

 ねえ。これみて。」

次はネコと赤ちゃんの警察ごっこ

パトカーの乗り物を押す赤ちゃん。

びっくりしてダッシュするネコ。

そして豪快に転ぶ。

私は思わず声を出して笑った。

「ね。可愛いでしょ!」

そう言いながら指を動かす。

次はネコと赤ちゃんの抱擁。

抱きしめ合って眠るネコと赤ちゃん。

「実は仲良しなのにいつも激しんだよね」

そう言って武田くんはニコっとした。

「何だか嬉しそうじゃん」

「いや。だってウチもネコ飼ってるじゃん。だから親しみあるんだよね」

「ネコ飼ってるとか知らないし」

そう言って2人で笑う。

さっきまでひとりで居たいと思っていたのが、

今ではもう少し一緒にいたい。そう思った。

それからというもの、定期的にこの場所で会っては色んな動画を見せ合った。

 

(何かないかなあ。)

私は家に帰ってからも、いつも次に見せる動画を検索した。

(これおもしろっ!)

そう思えば早く見せたくて仕方なかった。

次第に私たちはLINEで動画を送り合うようになった。

そして会った時は、ふたりで検索するようになった。

顔と顔が近づくだけでドキドキした。

 

私は久しぶりに、そのベンチに座る。

前を通る人たち。

きっとみんなは普通の場所。

でも私は青春を思いだす大切な場所。

カンカン。カチカチ。

「カンカンカンカン・・・

焼肉焼いても家焼くな♪」

 

幼い頃この歌ブラウン管から流れると

俺は心が踊っていた。

 

“拍子木“というものを今の若者は知っているだろうか。

俺は子どもの頃、町内の人たちと夜廻をしていた。

この時間がとても楽しかった。

俺たちは拍子木を手に持ち、

夜風に吹かれながらカチカチと音を鳴らす。

夜の静けさにその音が響き渡る。

魔法のような不思議な音。

暗闇に包まれた町は、

昼間とは違った顔を見せ、

新しい発見がいくつもあった。

まるで冒険に出ているようだった。

今ではうるさいからと、少なくなった拍子木。

それでも俺にとって、拍子木とともに廻った夜道は

友達と一緒に笑いながら、自分たちだけメロディで

不安定ながらも楽しさに満ちた思い出の時間だった。

 

そして大人の掛け声は「火の用心」

そして子供の掛け声は「焼肉屋いても家焼くな」

笑い声と共に歩く夜道。

ショコラトル

西アフリカにある小さな村。

ここに夫婦で営む小さな店がある。

看板などはない。

ただみんなはこの店を「ショコラトル」と呼ぶ。

14世紀に成立したアステカ王国での名称だ。

 

赤道から近く、熱帯地域、乾季は乾燥していて暑い

こう思われるこの地域だが、寒い時期もある。

正確には寒い時間帯もある。というところだろうか。

みんなからすると僅かな時間かもしれないが、

エアコンも窓もなく、

風も吹き荒れる寒い部屋を想像してくれ。

結構辛いものである。

その時に、ほっと安らげる場所。

それが「ショコラトル」だ。

 

夫婦が丁寧に淹れるココアは温かくて甘い。

その香りだけで心を打つほど豊かなものだ。

みんなは、笑顔で「ありがとう」そう言って帰っていく。

村のみんなに愛されるココア。

でもその裏には、厳しい現実がある。

 

ひとりの少年はココアを飲み終えこう言った。

「これで明日も働けます!ありがとう!」

そして少年は笑顔で帰っていった。

新しい日々

私は田舎で育ち、勉強の毎日だった。

それは決して嫌々でなく、勉強することが楽しかった。

大学で私は上京した。

初めて目にする光景がそこにはあった。

上京してからも私は勉強に没頭した。

新しい知識が入ってくることが楽しかった。

そんな私には恋愛など無縁だった。

化粧もまともにしたことがない。

オシャレにも興味がなかった私は、

地味だとよく言われた。

そんな私にある日突然“恋”が訪れた。

好きという感情もよくわからなかったが

とにかく彼のことが気になった。

(連絡来ないかなあ。)

私はいつもスマホを気にするようになった。

会うときは、胸が張り裂けそうな思いで

緊張しっぱなしだった。

「付き合おうか」

全然ロマンチックじゃない言葉だったが

私にとっては最高の言葉だった。

私はそれから初めての経験をたくさんした。

でも私には“初めての恋愛“そのことが大きくて、

“一緒にいる時間”というものだけが嬉しくて、

言いたいことも言えず、どこか臆病だった。

場所、食事、やること、会う時間。

とにかく彼に合わせた。

それからしばらくして、「ごめん」

彼はその言葉だけ残して去っていった。

何が何だかわからず、ただただ孤独だった。

“別れる“という辛さだと実感したのは数日後だった。

でも私には変わったことがある。

それは化粧する楽しみを知った。

オシャレをする楽しみを知った。

出かけることの楽しみを知った。

「終わった恋に負けてなんかいられない」

「だって私にはまだまだ未来がある。」

「いい女になってやるんだから!」

私は今日も笑顔いっぱいで、強い決意と共に

玄関の扉を開ける。

紡ぐ

学校の校庭に集められた部員たち。

「なにかあったの?」「あれ?先輩たちは?」

「撮影でもあるんじゃない?」

僕たちはなぜ集められたのかわからない。

みんなで様々な憶測が飛び交っていた。

 

その時だった。

「え?なにこれ」

空を舞う無数の紙飛行機。

その一つ一つが僕らのもとへ落ちてくる。

「あ!あそこ!」

一人の部員が指さす方を見上げると

先輩たちが立っていた。

 

僕たちは飛んできた紙飛行機を拾い上げた。

そこにはこうメッセージが書かれていた。

「君たちがこの場所を支えていくんだ」

「部活動はただの活動じゃなくて、一生の思い出だ」

「きっと素晴らしい未来が待ってるから。」

「自信を持って進んでいってほしい」

「新たな仲間や挑戦が待っているはずだ。」

「失敗してもいい。それが成長への第一歩」

「君たちは強く、頼りになる仲間がいる。」

「どんなことがあっても、前向きに立ち向かってくれたら嬉しい。」

「俺たちはいつでも応援しているよ!」

「これからは君たちの時代だ!」

「ありがとう。君たちと過ごした日々は本当に幸せだった」

1枚1枚ていねいに先輩たちの字で書かれていた。

 

そしてスピーカーから先輩の声が聞こえた。

「みんな!これが俺たち卒業生からの最後のメッセージ。

 頼りない俺たちだったかも知れないけど

 いつも仲間のことに真剣に向き合ってきた。

 怒った日々も、笑った日々も、泣いた日々も、

 俺たちは忘れない。ありがとう!

 みんな。本当に素敵な時間をありがとう。」

 

これからは僕たちが先輩たちの想いを継いでいく。