popoのブログ

超短編(ショートショート)

炎に消えた夢

この町の片隅に佇むカレー屋「スパイス夢」。

その店内には、どこか懐かしい香りが漂っていた。

店主は、スパイスをふんだんに使ったカレーを作り、

地域の人々に愛されていた。

 

ある夜、町ではデモが行われた。

そして、その影響から突如として火災が発生し、

スパイス夢は全焼してしまった。

消防車のサイレンの音と、炎が夜空を染める光景。

燃えていく店を見つめ、店主は絶望の淵に立たされた。

まるで自分の人生の一部が燃え尽きたように。

 

しかし、そんな店主を救ったのは、

全国のカレー好きからの温かい励ましの声だった。

SNS上には、「スパイス夢のカレーが忘れられない」

「また店主の笑顔が見たい」「私たちの思い出の場所」

といったコメントが溢れ、多くの人々が再建を願った。

 

期待に応えたい。

 

店主は、人々のメッセージに心を打たれた。

自分一人で抱えていた重荷が、少し軽くなった気がした。

そして、「もう一度…」という想いが、

少しずつ芽生えてきた。

 

再建は容易ではなかった。

資金集め、新しい店舗の設計、そして何より、

もう一度、あの愛されたカレーの味を出すこと。

店主は、昼夜を問わず働き、試行錯誤を繰り返した。

 

時には、孤独を感じ、挫けそうになったこともあった。

しかし、その度に人々の温かいメッセージが、店長のもとに届く。

 

「頑張ってください!」「必ず行きます!」

「待っています!」「家族みんな楽しみです!」

 

その一つ一つのメッセージが店長の心を支え続けた。

 

2年の歳月が流れ、

ついにスパイス夢は再びその姿を現した。

新しいスパイス夢は、以前よりも明るく、

開放的な空間となった。

厨房からは、懐かしいスパイスの香りが漂ってくる。

そして何より、カウンターには笑顔の店主がいた。

 

オープン当日、店前には長蛇の列ができた。

最初のお客さんは、

店の再開を心待ちにしていた常連客だった。

 

「オーナー!ただいま。」

 

その一言に店主は思わず目の前がぼやけた。

 

「ああ。おかえり。」

 

スパイス夢の復活は、

多くの人々に感動と勇気を与え、街に活気を戻した。

 

あの日、店主の炎に消えた夢は、

人々の力で再び輝き始めたのである。

 

最高の感謝と共に。

我が家は畳屋

薄暗い畳工場の中で、息子は古びた畳を手に、

物言わぬ父親を見つめていた。

かつては活気に満ちていた畳工場は、

今では埃っぽい機械と、積み上げられた畳が

静かに佇むだけの空間となっていた。

 

「お父さん、もう畳屋はやめようよ。」

 

息子の言葉に、父親は静かに畳の目を見つめた。

父親の目は、まるでこの畳にすべての想いを込めたかのように、

優しく、そしてどこか寂しそうだった。

 

「この畳には、俺たちの歴史が刻まれているんだ。」

 

父親の言葉に、息子は自分の幼い頃を思い出した。

夏には、工場の軒先で寝転がり、

夜空を見上げながら父親と話をした。

冬の朝には、父親が淹れてくれた熱いお茶を飲みながら、

畳の編み方を教わった。

畳の上でのそれらの記憶は、息子にとってかけがえのない宝物だった。

そして、この店は祖父から父親が譲り受けた店だった。

 

「わかってるよ。」

「でも、もう時代が違うんだ。

畳なんてほとんどの人が使わない。」

 

息子の言葉に、父親は静かに頷いた。

父親もわかっていた。

畳屋は、昔のように栄えることはないだろう。

それでも、父親には、

どうしても切り捨てられないものがあった。

それは、畳に対する情熱、そして、

この畳工場で過ごした日々への愛着だった。

 

「昔は、この畳の上で家族みんなで団欒したものだ。

 畳には人の温もりが宿っている。その温もりを守る。

 それが、俺の仕事なんだ。」

 

父親の言葉に、息子は心が揺れる。

 

「でも、お父さん。このままじゃ…」

「わかっている!だが簡単に諦めるわけにはいかないんだ」

 

息子は父親の仕事に対する情熱を

理解できないわけではなかった。

しかし、現実問題として畳屋を続けることは難しいと感じていた。

 

「お父さん!新しいことを始めてみないか!?」

 

その息子の決意のような強い言葉に父親は驚いた。

 

「あ、新しいこと?」

 

「ああ!例えば畳の材料を使った商品を作るんだ!

 あとは畳の編み方を教える教室とか!

 この畳屋で学んだことを活かすことができるはずだ!

 お父さんしか、僕たちだから、出来ることがある!」

 

父親は決意に満ちた息子の表情を見つめる。

息子の目は輝いていた。

 

「お父さん!一緒にやってみよう!」

 

息子は父親の手を握りしめた。

 

その日から、二人は新しい一歩を踏み出した。

畳屋は昔ながらの伝統を守りながら、

新しい時代に対応する動きを始めた。

 

やがて、少しずつだが畳屋は活気を取り戻した。

商品を買いに来る人。教室に通う人。

人の出入りが、二人に再び情熱を注いだ。

 

ある夕暮れ時。

二人は完成したばかりの畳の上に並んで座った。

 

「お父さん。ありがとう。」

 

息子の言葉に、父親は微笑んだ。

 

「お前が居てくれたから、ここまで来れた」

 

「こっちこそ、ありがとうな。」

 

熱いお茶を、そっと置いて二人は抱き合った。

万年筆と共に

茜色の空が、街を柔らかく

包み込むような、あの日の夕暮れ。

私は、大人への階段を

一つ一つ昇っていくような、

そんな感覚に包まれていた。

 

両親から手渡されたのは、

深紅の漆が美しい万年筆だった。

重厚感のあるその姿は、

まるで私の一生を

共に歩むパートナーのよう。

自分では決して選ばないような、

高価で美しい逸品。

その重みに、大人の階段を

上ることの厳粛さを感じた。

 

万年筆を持つ手は、少し震えた。

幼い頃から鉛筆を握っていた私にとって、

万年筆は特別な存在だった。

滑らかな書き心地、インクが紙に滲む音、

そして何より、

一筆一劃に込めた想いが、

鮮やかに紙上に現れる。

それは、まるで自分の心を

映し出す鏡のようだった。

 

大学受験、就職活動、

そして社会人になってからも、

その万年筆はいつも私のそばにあった。

大切な契約書にサインをする時、

友人へのお手紙を書く時、

悩みを書き出す時、

どんな時でも、この万年筆は

私を裏切らなかった。

 

万年筆の重みは、

単なる道具の重みを超えて、

私自身の成長を物語っているように思えた。

社会に出て、様々な経験を積み重ねる中で、

私は少しずつ大人になっていった。

その過程で、喜びもあれば、悲しみもあった。

しかし、どんな時も、

この万年筆は私の心の支えになってくれた。

 

ある日、後輩から

「先輩の字、きれいですね」

と声をかけられた。

私は照れながら、

「この万年筆のおかげかな」と答えた。

後輩は興味津々で万年筆を手に取り、

その美しさに見入っていた。

その姿を見て、私はこの万年筆を大切にしていこう

という気持ちを新たにした。

 

成人式の日の夕暮れを思い出す度に、

私はこの万年筆を手に取る。

それは、単なる筆記具ではなく、私の一部であり、

私の歴史を刻んだ宝物なのだ。

これからも、この万年筆と共に、

新しい章を紡いでいきたい。

海と砂浜

俺は久しぶりに故郷に帰り

昔よく遊んだビーチを訪れた。

 

穏やかな波が打ち寄せる砂浜。

きっと今年の夏も

たくさんの人たちがここを訪れ、

たくさんの思い出を作ったのだろう。

 

俺はしばらく砂浜を歩く。

さっきまで遠くにあったテトラポッド

近くなってきた。

昔はよくこの辺りで

小さな蟹を探していた。

そんな思い出が蘇る。

 

今度は砂浜から陸を眺める。

海岸線を走る数台の車。

そしてその向こうには

小さなカフェが見える。

 

大人になってこの町を離れ、

すっかりそのカフェを忘れていた。

 

初めてできた彼女と

初めて訪れたカフェ。

 

俺にとってはこのビーチと

同じくらい大切な場所。

 

そんな物思いにふけていると、

いくつかのゴミが目に入った。

俺は自然と近づき、拾い上げた。

 

その瞬間なんだか寂しくなった。

 

俺と同じようにここに訪れ、

思い出を作った人たちが、

この場所にゴミを残した。

 

その現実がちょっと残念だった。

 

俺は再び、この砂浜から海を眺める。

この先には他の大陸や島があり

全ての人たちとの繋がりを感じる。

 

みんなと繋がるこの海と

美しく広いこの砂浜を

俺は大切に守っていきたい。

 

そんな小さなチカラが湧いてきた。

熊本ばってん下戸だモン

「おーい、皆集まっちょんね!」

 

熊本市の中心部にある古民家カフェ。

そこには、お酒が飲めない若者たちが集まっていた。

主催者は、にこやかに話しかける。

 

「今日は、皆で美味しいお茶を飲んだり、お菓子作ったりしような!」

 

参加者たちは、持ち寄ったお茶やお菓子を広げ、

和気あいあいと語り合う。

 

「わっ、この紅茶、めっちゃ香りがええね!」

「このお菓子、手作りなん? めっちゃ美味しい!」

 

普段はなかなか話す機会のない人同士も、

共通の趣味を通して距離が縮まっていく。

 

「実は私、お酒飲めんくていつもパーティーとか楽しめとったんよ。」

「そうなん? 俺も! みんなでワイワイするのも楽しいけど、こういう落ち着いた時間もいいね。」

 

参加者たちは、お酒が飲めないことで

感じていた孤独感を打ち明け合い、共感し合う。

 

「これからも、こんな会を続けていきたいね。」

「うん! 絶対楽しい!」

 

参加者たちの笑顔が、

古民家カフェいっぱいに広がっていった。

 

 

「これ、ノンアルとは思えんばい!見た目も味も本格的!」

 

おしゃれなバーカウンターには、

カラフルなノンアルコールカクテルが並んでいる。

 

「そうでしょ?このお店、ノンアルカクテルの種類が豊富でびっくりしたよ。」

 

「私も!お酒飲めないから、こういうお店があると嬉しいよね。」

 

「よっしゃー、今度は皆でノンアルコールカクテルを作ろうぜ!」

 

下町のバーでは、カクテルを片手に、

カウンター越しに会話したり、

隣の席の人と趣味の話で盛り上がったり。

お酒が飲めない人でも、バーで過ごす時間は、

大人な雰囲気が満喫できていた。

 

 

お酒が好きな人は「何や?飲めんとか?」

そう言うけれども、

お酒が飲めない人たちにとって、

お酒を飲みたくない人たちにとっても、

交流の場は常にあり、心の繋がる場所はある。

最近ではSNSやオンラインでの交流もある。

それに、「お酒ば飲めんちゃこん場はたいぎゃ好き!」

そんな私はここにいる。