popoのブログ

超短編(ショートショート)

リクエスト

街の雑踏の中、ふと耳にしたラジオの音。

いつものように通り過ぎてしまうところだった。

しかし、そのメロディが、私の足をとめた。

 

それは、高校時代にクラスで流行った曲。

卒業式の日にみんなで合唱した、あの曲だ。

懐かしいメロディが、当時の記憶を鮮やかに呼び起こす。

 

教室で練習を重ねた日々、緊張しながらステージに立った瞬間、

友だちと顔を合わせ笑顔になったこと。

卒業後、それぞれ違う道を歩みながらも、

この曲を聴くとあの日のように心が一つになった気がした。

 

そんなことを考えながら、私はラジオの周波数を合わせ直し、

リクエストのコーナーに電話をかけた。

緊張しながら、曲名とリクエストの理由を話す。

 

「あの頃、みんなで歌ったこの曲は、私にとって青春の1ページなんです。今、この曲を聴くと、大切な友達との絆を改めて感じます。」

 

リクエストが叶うと、再びあのメロディが流れ始めた。

 

すると、今度は卒業後すぐにあった同窓会のこと、

それから数年後に結婚した友だちの結婚式でのことなど、

様々な思い出が次々と蘇ってくる。

 

まるで、この曲が記憶の引き出しを開ける鍵のように、

一つ一つの思い出が鮮やかに蘇る。

 

曲が終わると、私はしばらくの間、景色を眺めていた。

 

あの頃、未来への希望に満ちていた私たちは、

今、それぞれの場所で大人になった。

でも、この曲だけは、私たちをいつまでも繋いでくれる。

 

そう思った時、私は温かい気持ちで満たされた。

 

ラジオから流れる音楽は、単なる音ではなく、

私たちの心に深く刻まれた記憶を呼び起こす、

特別な力を持っているのかもしれない。

 

津軽農家の朝

おばあちゃん:「おい、おめな、もうだんだん明るくなってきたべ。

そろそろ起きて、火をおこしてけろ。」

 

おじいちゃん:「まだ、ちょっと早いべ。もうちょっとだけ寝かせてくれ。」

 

おばあちゃん:「ほれ、昨日作った白菜漬け、朝飯に食うべか?」

 

おじいちゃん: 「お、白菜漬けか。それはいいべ。

それじゃ、ちょっとだけ起きて、白菜漬け食ってから畑行くべ。」

 

おばあちゃん: 「そうこなくっちゃ。畑には、新しい鍬を持ってけろ。

古いのはもうボロボロだ。」

 

おじいちゃん:「体力はないべけど、心は若いべ。

 

おばあちゃん:「心だけじゃなかんだべ。」

 

おじいちゃん:「なんだ、おめごたえ。」

 

おばあちゃん:「ほら、火をおこして、朝飯の準備をしなきゃならねえべ。」

 

おじいちゃん:「わっかった、わっかった。」

 

おばあちゃん:「ほか今日は、何作ろうかねぇ。」

 

おじいちゃん:「わっちはな、おめが作る料理がなんでも好きだ。」

 

おばあちゃん:「おせじだな。」

 

おじいちゃん:「おせじじゃねえべ。本気だ。」

 

おばあちゃん:「そうかい。じゃあ、今日はおめが好きな焼き魚にしようか。」

 

おじいちゃん:「よし、よし。」

 

おばあちゃん:「ああ、それにしても、今日は寒いな。」

 

おじいちゃん:「そうだな。昔はもっと寒かったべ。」

 

おばあちゃん:「そうじゃな。昔は、冬になると、みんなで囲炉裏を囲んで暖を取ったもんだ。」

 

おじいちゃん:「あの頃はよかったな。」

 

おばあちゃん:「今もいいじゃないか。」

 

おじいちゃん:「そうだな。おめがいてくれて、わっちは幸せだ。」

 

おばあちゃん:「おめもだよ。」

 

二人は、手を握りしめ、微笑み合う

 

おじいちゃん:「ああ、やっぱり寒いな。」

 

おばあちゃん:「わかったって。早く着替えて畑に行きなさい。」

 

おじいちゃん:「なあんだ、おめは。まあ、行くべ、行くべ。」

 

おばあちゃん:「あのじじい、いつまでも子供みたいだ。

まあ、元気でいてくれればそれでいいんだけどな。

図鑑

澄み切った青空の下、咲(さき)は

庭いっぱいに広がる花畑に足を踏み入れた。

春の息吹を感じさせる、色とりどりの

花々が太陽の光を浴びて輝いている。

咲は、いつも通りのように、

それぞれの花に顔を近づけ、その甘い香りを深呼吸する。

 

咲は、花が大好きだった。

図鑑で花の知識を深めるのも好きだったが、

それ以上に、実際に花に触れて、

その美しさや生命力を感じることが好きだった。

 

ある日、咲は古いノートを見つけ、ひらめいた。

図鑑を自分で作ってみよう!

そう思った咲は、早速庭に咲く花を一つ一つ観察し始めた。

 

花びらの形、色、そしてその花が咲く季節。

咲は、それらの情報を丁寧にノートに書き込み、

集めた花びらをノートに貼っていく。

 

最初は、バラの赤い花びら、コスモスのピンクの花びら、

そしてひまわりの可憐な黄色い花びら。

咲は、花びらの美しさをそのままに、ノートに貼り付けた。

 

ノートに貼られた花びらは、まるで絵画のようだった。

咲は、図鑑に絵を描くように、花びらを配置し、

その花の名前や特徴を書き加えていった。

 

日が暮れるまで、咲は花とノートの世界に没頭していた。

完成したノートは、咲だけのオリジナル図鑑。

そこには、咲の愛情がたっぷり詰まっていた。

 

次の日、咲は作った図鑑を持って、

いつも遊んでいる公園へ行った。

友達に見せてあげると、みんなは咲の図鑑に目を輝かせた。

 

「すごい!素敵!」

 

「咲、お花のこと詳しいんだね!」

 

友達からの言葉に、咲は嬉しかった。

そして同時に、自分の趣味を共有できた!

という喜びがあった。

 

咲の図鑑は、ただの花の図鑑ではなく、

咲の一言も添えられていて、心が詰まった、

世界でたった一つのものだった。

 

それからというもの、咲は色々な花を育て、

図鑑に新しいページを加えていった。

図鑑は、咲の成長と共に、どんどんと分厚くなっていった。

 

咲は、花を通してたくさんのことを学んだ。

花の美しさ、生命の大切さ、そして自然の素晴らしさ。

咲の心は、花のように美しく、そして力強く咲いていった。

 

数年後、咲は大きくなった。

咲は、自分の図鑑を手に、花の先生になった。

咲は、子供たちに花の素晴らしさを伝え、

たくさんの子供たちの心を花で満たしていった。

 

咲の図鑑は、いつまでも咲の宝物であり、

そしてたくさんの人の心を繋ぐ架け橋となった。

ランプの灯

薄明かりが部屋に差し込み、

朝の静けさがカーテン越しに感じられた。

布団から出るのが億劫で、

くるまっている毛布に顔をうずめる。

今日も一日が始まるのか、と重たい気持ちが胸にこみ上げる。

 

何度も時計の針が動いただろうか。

ようやく布団から這い出し、窓を開けた。

冷気が部屋に流れ込み、少しだけ意識がはっきりする。

 

ため息をついた後、いつものように机に向かう。

やるべきことは山積みなのに、一向に手につかない。

焦燥感と無力感が交錯し、心がざわめく。

 

ふと視線は部屋の一角にある小さなランプに落ちた。

私はランプに近付き、スイッチを入れた。

すると部屋全体がほんの少しだけ明るくなった。

その光は、まるで私の心に直接射し込んできたように感じた。

 

「きっと、乗り越えられる。」

 

普段何気なく目にしている光が、今日は特別に輝いて見えた。

まるで、私を励ましているかのように。

そして、その言葉が私の心に小さな火を灯した。

私は少しずつ、心が軽くなっていくのを感じた。

 

ランプの光は、何も特別な力を持っているわけではない。

ただ、そこに存在しているだけで、私を照らしてくれる。

それは、まるで、誰かの温かい言葉や、優しい笑顔と同じように、

心に安らぎを与えてくれる。

 

私は、立ち上がり、部屋を歩き始めた。

 

そしてまずは、部屋を片付けることから始めることにした。

最初は億劫だったが、ランプの光を頼りに、

一つ一つ丁寧に作業を進めていくうちに、

次第に集中力が研ぎ澄まされていった。

 

気がつけば、部屋はすっかり片付いていた。

 

昔、祖母は、このランプの光には魔法がかかっていて、

どんな悩みも解決してくれる、と教えてくれた。

 

「あの時、祖母が教えてくれた魔法は、本当にあったんだ。」

 

私は深呼吸をして、もう一度、やるべきことに目を向ける。

 

小さな一歩を踏み出す勇気を、このランプの光が与えてくれた。

 

秋の冷たい風が入る部屋で、小さなランプの光は、

私の心に温かい光を灯してくれた。

パパは魔法使い

ある日、小さな男の子、ひなたはパパに尋ねた。

「パパ、なんでママはいつも笑ってるの?」

 

パパは優しく微笑み、

「それはね、ひなたが明るくて優しい子だからだよ。

ママはひなたと毎日一緒にいられて幸せなんだ」と答えた。

 

ひなたは首をかしげた。

「でも、パパもいつも笑ってるよ。」

 

パパは目を丸くして、「そうかな?」と答える。

 

「うん!」

「パパは魔法使いさん?」

「え?どうしてそう思うの?」

「だって、だって、パパはご飯も作るし、一緒に公園行ったり、

 本読んだり…ママの肩もマッサージしてるもん。」

 

ひなたにとっては、パパが魔法使いのように見えていた。

そして、毎日を楽しくしてくれることに気がついていた。

 

パパは、子育てを楽しむことをモットーにしていた。

料理は得意ではないが、ひなたのために新しいレシピに挑戦し、

時にはママと一緒にクッキング教室に通った。

公園では、滑り台を一緒に滑ったり、虫捕り網を持って駆け回ったり、

子ども心を取り戻したように遊びに夢中になった。

 

もちろん、家事分担も積極的に行い、

ママがゆっくりできる時間をたくさん作った。

ママのリラックスできるアロマキャンドルを焚いたり、

お風呂にアヒルのおもちゃを浮かべたり、

小さなサプライズでママとひなたを笑顔にした。

 

ある日、ママはパパに感謝の気持ちを込めて言った。

「あなたと結婚して、ひなたが生まれてきてくれて、

本当に良かった。毎日が楽しくて幸せ。」

 

パパは照れながら、

「僕もだよ。君とひなたがいてくれるから、

僕は世界で一番幸せなパパだよ。」

 

家族3人で過ごす時間は、いつも笑顔があふれていた。

ひなたは、パパとママの愛情をたっぷり受けて、すくすくと成長している。

 

「パパ!こっちきて!」