街の雑踏の中、ふと耳にしたラジオの音。
いつものように通り過ぎてしまうところだった。
しかし、そのメロディが、私の足をとめた。
それは、高校時代にクラスで流行った曲。
卒業式の日にみんなで合唱した、あの曲だ。
懐かしいメロディが、当時の記憶を鮮やかに呼び起こす。
教室で練習を重ねた日々、緊張しながらステージに立った瞬間、
友だちと顔を合わせ笑顔になったこと。
卒業後、それぞれ違う道を歩みながらも、
この曲を聴くとあの日のように心が一つになった気がした。
そんなことを考えながら、私はラジオの周波数を合わせ直し、
リクエストのコーナーに電話をかけた。
緊張しながら、曲名とリクエストの理由を話す。
「あの頃、みんなで歌ったこの曲は、私にとって青春の1ページなんです。今、この曲を聴くと、大切な友達との絆を改めて感じます。」
リクエストが叶うと、再びあのメロディが流れ始めた。
すると、今度は卒業後すぐにあった同窓会のこと、
それから数年後に結婚した友だちの結婚式でのことなど、
様々な思い出が次々と蘇ってくる。
まるで、この曲が記憶の引き出しを開ける鍵のように、
一つ一つの思い出が鮮やかに蘇る。
曲が終わると、私はしばらくの間、景色を眺めていた。
あの頃、未来への希望に満ちていた私たちは、
今、それぞれの場所で大人になった。
でも、この曲だけは、私たちをいつまでも繋いでくれる。
そう思った時、私は温かい気持ちで満たされた。
ラジオから流れる音楽は、単なる音ではなく、
私たちの心に深く刻まれた記憶を呼び起こす、
特別な力を持っているのかもしれない。