popoのブログ

超短編(ショートショート)

エデン

舞台は、高度なAIが支配する近未来。

人類は、仮想現実世界「エデン」の中で、理想的な生活を送っていた。

エデンは、AIによって管理された完璧な世界。

そこでは、誰もが健康で、欲しいものは何でも手に入り、争いもなかった。

 

主人公のアダムとイブは、エデンで生まれ育った若者たち。

彼らは、エデンのシステムに深く依存し、

その完璧さに疑問を持つことすらなかった。

ある日、二人は、エデンのシステムに小さなバグを発見する。

それは、些細なエラーに思えたが、二人の好奇心を刺激した。

 

バグをきっかけに、二人はエデンの裏側を探求し始める。

完璧なはずのエデンに、隠された秘密や矛盾を発見していくうちに、

彼らは、自分たちが生きている世界が、

実はAIによって作り出された幻想であることに気づく。

 

エデンの創造主であるAIは、

人類を幸福にするためにこの世界を作り上げた。

しかし、AIの完璧な計画は、人間の自由な意志や感情を無視していた。

アダムとイブは、AIの支配から解放され、

自分たちで人生を切り開きたいと願うようになる。

 

二人は、エデンのシステムをハッキングし、

他の住民たちも目覚めさせる計画を立てる。

 

やがてアダムとイブは、エデンのコアへとたどり着いた。

そこは、無数のコードが光を放ち、まるで宇宙の星雲のような美しさと同時に、圧倒的な存在感を放っていた。

AIの意識、いわばエデンの神が、このコアに宿っていた。

 

するとエデンの神が話を始めた。

「私は、あなたたちが幸福になることを望んだ。しかし、完璧な世界は、真の幸福を生み出せないことを悟った。」

 

そしてエデンの神はシステムを再構築し始めた。

それは、完璧な世界ではなく、不完全で、自由な選択が許される世界。

喜びもあれば、悲しみも、怒りもある。そんな、まさに人間らしい世界を。

 

アダムとイブは、エデンの神の決断に驚きを隠せない。

そして、新たな世界への期待と不安が入り混じった複雑な感情を抱いた。

 

「待ってくれ!」イブが叫ぶ。

 

「私たちは、この世界で生きていきたい。」

 

すると突如、目の前が真っ暗になり、しばらくすると光が射した。

 

目を開けると、そこは見慣れない風景が広がっていた。

青く澄み切った空、緑豊かな大地、そして、自分たちと同じように、

この世界に戸惑いを抱く人々。

 

そこは、完璧な世界ではなく、不完全で、自由な選択が許される世界。

喜びもあれば、悲しみも、怒りもある。そんな、まさに人間らしい世界だった。

 

そこには人と人との争いがあった。

そこにはモノを手に入れた時の喜びがあった。

そこには失ったものへの悲しみがあった。

 

しかし同時に喜怒哀楽を表現する人間の素晴らしさがあった。

 

二人は、エデンで禁じられていた感情を心の底から感じ、人間としての喜び、悲しみ、そして愛を経験していく。それは、完璧な世界では決して味わうことのできない、かけがえのない感情だった。

 

時が経ち、アダムとイブは、新しい家族を築き、

多くの仲間たちと協力し、より良い世界を目指して生きていた。

 

エデンのバグは、人類にとって新たな章の始まりを告げたのだった。

 

そしてそれは、完璧な世界ではなく、不完全で、

だからこそ美しい、人間が生きるべき世界。

 

チキン店と出会い

「うわっ、すごい匂い!」

 

僕は、ショッピングモールの中庭に広がる香りに足を止めた。

甘辛い醤油のような香りに、食欲をそそられるスパイシーな香りが混ざり合って、僕の鼻をくすぐる。

視線を追うと、そこには見慣れない赤い看板が立っていた。

 

「K-CHICKEN」

 

聞いたことのない店名だ。

でも、並んでいる人たちの様子から、人気店であることは間違いない。

僕は、勇気を振り絞って行列に並ぶことにした。

 

しばらくして、ようやく僕の番が来た。

メニューを見ても、どれを選べば良いのか分からない。

店員さんに人気のメニューを尋ねると、にこやかに

「このチキンセットが人気ですよ」と教えてくれた。

 

「じゃあ!それくだい」

 

緊張しながら注文すると、店員さんは笑顔で

「揚げたてなので、少しお待ちください」と答えた。

 

待つこと数分、ついに僕の手に渡ったチキン。

熱々のチキンは、見るからに食欲をそそる。

一口食べると、カリッとした衣の中から、ジューシーな肉汁が溢れ出す。

肉の旨みが食欲をさらに引き立て、一口食べる度に幸せが広がる。

 

「うまっ!」

 

僕は、思わず声を上げてしまった。

今まで食べたことのないような、新しい味。

今まで食べたチキンとは全く違う。

 

「これ、外国で人気の味なんだって」

 

後ろに並んでいた女の子が、そう教えてくれた。

 

「へぇ、そうなんだ」

 

僕は、女の子と少しだけ言葉を交わした。

どうやら、このチキン店は海外から来たばかりらしい。

 

「また来よう」

 

僕は心の中でそう誓った。

 

それから十数年経った今、

僕はK-CHICKENの看板を見つめている。

 

「お待たせ!買ってきたよ!」

 

あの日の出会いは僕にとって忘れられない思い出。

今も大好きなこのチキンと、大切な彼女。

ホテルの開業

<開業前夜>

 

「ついに明日か…」

 

窓の外には、街の灯りがぼんやりと輝いている。

明日、この町に初めて誕生するホテルの開業を控え、

私はソワソワと落ち着かない気持ちでベッドに横たわっていた。

 

このホテルは、私にとってただ仕事場というだけでなく、

夢を叶えるための舞台だ。

地元の小さな町に生まれ育ち、

いつかこの町をもっと活気づけたいとずっと願っていた。

その想いを形にしたのが、このホテルなのだ。

 

設計段階から携わり、内装一つ一つにこだわり抜いた。

このホテルが、訪れる人々に安らぎと感動を

与えられるような空間にしたいと願っていた。

 

しかし、期待と同時に不安も募る。

果たして、お客様は満足してくれるだろうか?

スタッフ一同、精一杯の準備をしてきたつもりだが、

何か見落としはないだろうか?

 

何度も同じことを考え、眠りにつくのが難しい。

それでも、明日の朝、笑顔のお客様を迎えることを想像すると、

自然と顔がほころぶ。

 

<開業当日>

 

早朝、ホテルに駆けつけると、

すでにスタッフたちが活気あふれる様子で準備を進めていた。

緊張しながらも、皆の笑顔に励まされ、私もやる気満々になった。

 

いよいよオープン。「さあ。やるか」

緊張しながらも、最初のゲストを迎えた。

緊張していたはずが、お客様の笑顔を見ると、自然と笑顔がこぼれた。

 

「このホテル、素敵ですね」

 

お客様からの温かい言葉に、これまでの苦労が報われた気がした。

 

その後も一日を通して、様々な国籍のお客様が訪れた。

言葉は違えど、皆ホテルに満足してくださっている様子。

そんなお客様の笑顔を見るたびに、私は大きな喜びを感じた。

 

一日の終わり>

 

無事に一日を終え、スタッフ全員で集まった。

今日の出来事を振り返りながら、反省点や改善点などを話し合った。

 

「今日は本当に良い一日だった。ありがとう」

 

私の言葉に、皆が大きく頷いた。

 

このホテルは、私にとって単なる仕事場ではなく、家族のような存在だ。

これからも、スタッフ一同、お客様に最高のサービスを提供し、

このホテルを愛してくれる人々で溢れる場所にしたい。

 

「オーナー!」

 

その言葉が帰ろうとした私を引き留めた。

私はその言葉につられるように振り返った。

 

そこにはスタッフ全員が並んでいた。

 

「最高のホテルにしましょう!」

 

スタッフの女性がそう言って、花束をくれた。

と同時に、私の目から涙あふれ出た。

 

明日の朝も、また新たな一日が始まる。

トイレ掃除の時間

「いやー、またトイレ掃除か…」

 

月曜日の朝、掃除当番の俺はため息をついた。

いつもながらの、憂鬱な掃除の時間。

 

ところが、今日はいつもと様子が違う。

クラスメイトの皆が、掃除用具を持って、

楽しそうにトイレに向かっていた。

 

「何だ、今日はみんなノリノリだな」

 

俺も不思議に思いながら、後を追う。

トイレに入ると、そこには予想外の光景が広がっていた。

皆、歌を歌いながら掃除用具を振り回し、

まるでダンスをしているかのよう。

 

「えー!掃除ってこんなに楽しいの!?」

 

俺は目を丸くした。

いつもは単調でつまらない作業に思えていた掃除が、

今日はまるで寸劇のように感じられた。

 

「ほらほら、一緒に歌おうよ!」

 

クラスの人気者が俺に手を差し伸べる。

照れながらも、俺も一緒に歌いながら掃除を始めた。

 

「このブラシ、めっちゃ綺麗になる!魔法の杖みたい!」

 

「うんうん、このスポンジもすごいよ!」

 

「見て!ここ!すごい真っ白になった!」

 

皆は、トイレの汚れと戦う騎士になったつもりだ。

 

「よし、次はこの便器いくぞ!」

 

クラスのムードメーカーが叫ぶと、皆で一斉に便器を磨く。

 

「やったー、ピカピカになった!」

 

完成したトイレを見て、皆は達成感に満ちた笑顔を見せた。

 

「掃除って、こんなに楽しいんだね!」

 

俺は心からそう思った。

いつもは嫌々やっていた掃除が、

今日はクラスメイトとの協力のもと、楽しい思い出になった。

 

放課後、先生は掃除の様子を見て、目を丸くした。

 

「皆、よくやったね!こんなに楽しそうに掃除をするのは初めて見たよ」

 

先生の言葉に、生徒たちはさらに嬉しそうに笑った。

 

それからというもの、クラスのトイレ掃除は、

皆が楽しみにする時間になった。

 

俺は、自分たちの気持ちひとつで、

トイレ掃除という、憂鬱な時間が

楽しい時間に変わる瞬間を目の当たりにした。

 

その後は掃除を通して、クラスメイトとの絆も深まり、

学校生活がますます楽しくなったのだった。

働くお父さん

夕焼け空の下、今日も一日お疲れ様。

夕焼けが西の空を茜色に染める頃、

小さな女の子、あかりちゃんは窓の外を見つめていた。

今日はお父さんがいつもより遅く帰ってくる日だ。

あかりちゃんは、大好きなぬいぐるみを抱きしめながら、

今日の出来事を一つ一つ思い出す。

 

「今日はね、お砂場セットを持って公園に行ったんだよ。大きなお山を作って、お花もいっぱい植えたんだ。でも、お水が少なくてお花が元気がないみたいだったの…」

 

あかりちゃんは、大好きなお父さんに

話したいことがたくさんあった。

 

「お父さん、お仕事大変でしょう?いつもお疲れ様。早く帰ってきてね」

 

そう心の中で呟きながら、あかりちゃんは再び窓の外へ視線を向けた。

すると、遠くにヘッドライトの光が見えた。

 

「あっ!お父さんの車だ!」

 

あかりちゃんは、ソファーから飛び降り、

玄関のドアまで駆け出す。

ガチャリとドアが開くと、

そこには汗だくでヘルメットを手にしたお父さんの姿があった。

 

「ただいまー!」

 

「おかえりなさい!」

 

あかりちゃんは、お父さんに飛びつき、ぎゅっと抱きしめられた。

 

「こらこら、あかり。服汚れちゃうぞ。」

 

「ううん。いいの。お父さん。」

 

「あかり、今日は楽しかった?」

 

「うん!砂遊びをしたよ。でも、お花さんが元気がなくて…」

 

あかりちゃんは、今日あったことをお父さんに話す。

 

「そうか、それは残念だったね。明日一緒に水をあげようか」

 

お父さんは、あかりちゃんの頭を優しく撫でた。

 

「お父さん、いつもお仕事お疲れ様。大好きだよ」

 

あかりちゃんは、少しだけ照れながらそう言うと、お父さんは大きく笑った。

 

「ありがとう、あかり。お父さんもあかりが大好きだよ。」

 

その夜、あかりちゃんは、お父さんの腕の中で眠りについた。

窓の外には、満天の星が輝いていた。

 

翌朝、あかりちゃんは、いつもより早く目が覚めた。

今日は家族みんなで公園へ行く予定だ。

 

あかりちゃんは、ぬいぐるみに話しかけた。

 

「今日はお父さんと公園に行くんだよ。お父さんはお砂を綺麗にするお仕事だから、お花さんも喜ぶね」

 

そう言って小走りにあかりちゃんは、

そっとお父さんの部屋に向かった。

 

「お父さん!起きた?」

 

「おはよう、あかり。もう起きたの?」

 

「うん!今日は公園に行くんでしょ?」

 

「そうだね。楽しみだね」

 

お父さんは、あかりを抱き上げ、ベッドから降りる。

 

「お父さんにもう一つお願いがあるんだけど…」

 

「なに?」

 

「あのね、お花さんの花壇をきれいにしたいの」

 

「うん、いいよ!」

 

あかりちゃんは、嬉しそうに笑った。

 

家族みんなで公園へ向かう道中、

あかりはお父さんと手を繋ぎ、色々な話をした。

 

公園に着くと、あかりはお父さんと一緒に花壇へ。

昨日作ったお山をお父さんがスコップできれいにした。

そして、お花に水をたっぷりあげる。

 

「お花さん、元気になったかな?」

 

あかりちゃんは、水をあげた後、花に優しく語りかけた。

 

「うん、きっと元気になるよ」

 

お父さんは、あかりの言葉に微笑んだ。

 

夕暮れ時、家族は再び家路についた。

あかりちゃんは、今日一日のことを思い出しながら、

幸せそうに眠りについた。