お前はいつも元気だな。お前はいつも明るいな。
あいつなら大丈夫だろう。あいつなら何とかするだろう。
そんな言葉や思いを、オレはあいつに何度言い、何度思ったことだろう。
今日も当たり前のような日常を送り、特にあいつを気にすることもない。
そのはずだった。
東京・新宿区のビルから転落死
現場からは遺書らしきもの
朝の電車の中で開いたスマホで目にした記事。
それでもオレはあいつのことを思い浮かべることすらなかった。
当たり前の日常に、あいつは当たり前にいるはずだったから。
57人
この国ではいつもどこかでその人たちは自らの人生に終わりを告げる。
言いたくても言えない人。頼りたくても頼れない人。
生き方がわからない。生き方を忘れた人だっている。
そんなことに気付いたのは、あいつがいなくなったと知ってからのことだった。
オレはあの記事を見てから事実を知るに2日かかった。
え?まじで?
確かおれが事実を知った時の最初の言葉。
泣くでも悲しみでもなく驚きだった。
数日後オレのもとに届いたメール。
誰か助けて。もう無理だ。辛い。もう限界だ。自信がない。たすけて
これはあいつが最後に書き残したメッセージだという。
あいつはいつもニコニコしていて、時にはうざったいほどにも感じ
あいつへの返事を後回しにするときもあった。
まさかあいつがそんなことを思っていたなんて。
まさかあいつがこんな行動とるなんて。
オレはあいつから出された「助けて」の信号を感じてやることができなかったのかもしれない。
もしかしたらあいつは「助けて」の信号を送ることすらできなかったのかもしれない。
あいつはそのメッセージを誰かに送るわけでもなく、ただただ自分のスマホに残していただけだったから。
今日オレは久しぶりに家族に電話しようと思う。
何かの変化を感じることはあるのだろうか。
もしかしたらオレが何かを伝えるかもしれないけれど。