ひとくち食べたカレー。
その時、私は懐かしさを感じた。
私は片親で母は仕事でいつも帰りが遅かった。
私は近くの祖父母の家に預けられた。
「おはよう」朝あずけられると幼い私は決まってまず、ばあちゃんのたるんだあごから首元にかけた部分を触る。
あの感触が好きだった。
決まって朝は喫茶店にモーニングに出かける。
決まってオレンジジュースが出てくる。
お家に帰って、おもちゃで遊んでTVをみて。
お昼にはよく蕎麦を食べていた気がする。
お昼からは散歩に出かけた。
つくしの時期にはよく土手でとっていた。
長いつくしを探してばあちゃんと競っていた。
桜をみては綺麗だなと思った。薄いピンクが好きだった。
セミの鳴き声が聞こえるころには体中蚊に刺されて泣いていた。
銀杏のにおいは臭くて苦手。でも雪が降ると喜んで駆け回った。
たまに来る自転車の豆腐屋さん。
たまに来るトラックのラーメン屋さん。
よく器をもって外にでた。
じいちゃんとばあちゃんは、カレーの日だけはいつも一緒にご飯を作っていた。
その並んだ2人の背を眺めるのが好きだった。
大好きだったじいちゃんもばあちゃんも、もう今はいない。
畳にひかれた布団で寝ていると「ごめんね」と母が帰ってくる。
そして私は母の手を握り家へ帰る。
そんな毎日が当たり前で好きだった。
私はここのカレーが大好きだ。
じいちゃんとばあちゃんが作ってくれた味に似ているから。
夕方になり料理をする私。
後ろからは甲高い笑い声が聞こえる。
この料理があの子たちにとって懐かしく感じるものになってくれたら
幸せだ。