popoのブログ

超短編(ショートショート)

のりこえた先に

「大丈夫ですか?」

オレは電車の中で一人の女性を見つけた。

彼女は顔色が悪く、息切れをしていた。

「わたし。もしかしたらコロナかも・・・。」

彼女は扉の近くでうつむいたまま顔を赤くして何とか立っていた。

世間では新型のウィルスによって大きな混乱に陥っていた。

人々は、マスクを着用し、ソーシャルディスタンスを保つことで、

感染拡大を防ごうとしていた。

「大丈夫ですか?」「こちらに座って」

オレは席を譲り、鞄から水を差し出した。

「病院に行きましょう」

オレは彼女に手を貸し、電話をし、何とか病院にたどり着いた。

その後オレは濃厚接触者となりしばらく隔離された。

その後オレは陽性者になった。

しばらくたって元の生活に戻り始めたころ、オレの電話が鳴った。

「あの・・・この前はありがとうございました。」

「あの時に声をかけてくれたのはあなただけでした。」

「もしあのままだったら。わたし・・・わたし・・・。」

その後、オレは彼女と連絡を取り合い友達なった。

その後、オレは彼女と付き合うことになった。

その後、オレは彼女と結婚をした。

そう語る彼は今病院のベッドにいる。

私たち看護師はあの時、日々訪れる患者、日々増える患者に戸惑っていた。

どうすればいいか答えが出ない。それでも助けてという声が訪れる。

悲痛な現実。考えたくない現実とそれでも訪れる現実に挟まれていた。

もういやだ!そう思っても訪れる患者。

毎日が目の前のことでいっぱいだった。

彼は今、後遺症でここにいる。

これからどうなるのか不安な中、

それでも彼は「オレはあの時、声をかけてよかった。」

「オレは彼女と結婚出来て、幸せだ。」と言う。

これからどうなるのかもわからないのに。

だけど私は人々が助け合うことの大切さを感じていた。

看護師もそんな悪いものじゃないなあ。

そう思いながら帰り道、ふと顔をあげると東京タワーが目に入る。

そこには「ARIGATO」の文字が。

私は涙があふれだした。