シェアハウスのリビングは、小麦粉の甘い香りと、
若者たちの楽しげな歌声で満たされていた。
明日が誕生日の友人のために、美穂は一生懸命、
デコレーションケーキを作っていた。
美穂と友人の麻美は、幼馴染み。
いつも一緒に笑い、泣き、時にはケンカもした。
そんな二人の大切な思い出が、美穂の心の中に満ち溢れていた。
「麻美だったら、どんなのが喜ぶかな?」
そう自問自答しながら、美穂は絞り袋にクリームを詰め替える。
子供の頃に一緒に食べたイチゴショートケーキ、
部活で疲れて帰った日に作った手作りアップルパイ、
受験勉強の合間に食べたチョコレートケーキ…。
たくさんの思い出が、美穂の腕を動かす。
「やっぱり、麻美の好きなクッキーは必須だよなぁ。」
そう心に決めた美穂は、
スポンジケーキに慎重にクリームを塗り重ねると、
同時にクッキーを焼いていく。
少しづつ、丁寧に、工程が進む度に、
麻美への気持ちが深まっていく。
「美穂、何してるの?」
シェアハウスのキッチンに響いたのは、
一緒に住む陽介の声だった。
陽介は、美穂と麻美の仲の良い様子をいつも微笑ましく見守っていた。
「あ、陽介くん!明日、麻美の誕生日なの。
サプライズでケーキを作ってるところなの。」
美穂は、少し照れながらそう答えた。
「へぇ、すごいね。麻美、きっと喜ぶよ。」
陽介は、そう言うと冷蔵庫から飲み物を出し、美穂の隣に座った。
「そうだよね。でも、上手くできるかちょっと不安なの。」
美穂は、そう言うと、少し不安げな表情を見せた。
「大丈夫だよ。美穂の気持ちは、ケーキにちゃんと伝わってるよ。」
陽介は、そう言って、優しい笑顔を見せた。
その夜、美穂は完成したケーキを前に、何度も見返した。
少し形が歪んでいるところもあるけれど、
そこには美穂の愛情がぎゅっと詰まっている。
当日、リビングには、甘い香りが広がった。
「ん?何だろう、このいい匂い…」
眠そうに目を覚ました麻美は、
リビングに続くドアを開けると、
そこには手作りケーキと、笑顔の美穂と陽介の姿があった。
「おめでとー!」
二人の言葉に、麻美は驚きと感動で目を大きく見開いた。
「わぁ、すごい!美穂、ありがとう!陽介くんもありがとう!」
麻美は、ケーキを見て、思わず声を上げた。
ケーキの上には、Happy birthday
と書かれた麻美の大好きなクッキーが飾られていた。
「これ、私が子供の頃に一緒に作ったイチゴショートケーキをイメージして作ったんだよ。」
美穂は、そう言うと、少し恥ずかしそうに笑った。
「嬉しい!大切に食べるね。」
麻美は、ケーキを前に、何度も感謝の言葉を口にした。
その夜、三人は一緒にケーキを食べながら、たくさんの話をした。
「美穂の手作りケーキ、本当に美味しい!」
「そうだね。一生の思い出になったよ。」
「これからも、ずっと友達でいようね。」
ケーキの甘さが、二人の友情をさらに深めていくように感じた。
そして美穂は、心から思った。
「友達って、本当に素晴らしいものだな。」
「ああ!ハッピーバースデー歌うの忘れちゃったじゃん!」
「ほんとだ!」「よし!今から歌おう!」
若者たちの楽しげな歌声は、
友情による温かいものだった。