茜色に染まる空を見上げ、佳織は深呼吸をした。
夏の夜風は、生ぬるく頬を撫でる。
ベランダに置かれた小さなテーブルには、
冷えた麦茶と、今日摘んできたばかりのひまわりが一輪。
「ねえ、見て。このひまわり、太陽に向かって咲いてるみたいでしょう?」
佳織は、スマートフォンに向かって話しかけている。
画面の向こうには、愛する彼の笑顔が映る。
遠距離恋愛中の二人は、こうして毎晩のようにビデオ通話をして、
お互いを確かめ合っていた。
「あ、佳織、きれいだね。そのひまわり、もう少し見せてよ」
彼の言葉に、佳織は笑った。
ひまわりをカメラに近づけ、ゆっくりと画面を動かしてみせる。
「ねえ、あのね。このひまわりみたいに、
いつもあなたの方を向いていたいなって思う」
少し照れながら、そう告げると、彼は優しく微笑んだ。
「僕もだよ。佳織の笑顔を見ると、
どんなに辛いことがあっても乗り越えられる気がするよ」
静かに流れる時間の中、二人は互いの存在の大きさを改めて感じていた。
「ねえ、佳織。次に会う時は、一緒に花火をやろうね」
「うん、絶対にやろう。浴衣着て、手をつないで」
佳織は、そう言うと、彼との夏の思い出を一つ一つ心に刻んでいった。
夜空には、無数の星が瞬いていた。
「夏の夜や 君の横顔 月夜かな」
「素敵な俳句だね。ずっと一緒にいるみたいだ」
「ずっといるよ」
二人の愛は距離を越えて育まれている。