popoのブログ

超短編(ショートショート)

路面電車

「チンチン!」静まった夜にベルが鳴る。

 

この街の路面電車は最後の運行を終えようとしていた。

古びた車体は、長年の風雨に打たれ、

あちこちに傷跡を残していた。

それでも、車内には、この電車にさよならを告げようと、

多くの人々が詰めかけていた。

 

窓の外を流れる景色は、昔と何も変わっていなかった。

懐かしい風景に、乗客たちは幼い頃の記憶を辿る。

学生時代に友だちと通学した日々、

初めてのデートで緊張した瞬間、

そして、家族で一緒に乗った温かい思い出。

 

車内には、静かに流れるメロディーが響いていた。

それは、この路面電車のために作られたオリジナルの曲で、

人々の心に深く沁み込んでいた。

メロディーに合わせて、

乗客たちはそれぞれが思い思いに過ごしていた。

 

車掌のアナウンスが車内に響き渡る。

「まもなく、終点です。長い間のご利用、誠にありがとうございました。」

 

アナウンスを聞き、乗客たちは窓の外に視線を向けた。

終点の駅は、いつも通りの姿で彼らを待っていた。

しかし、どこか寂しげな雰囲気が漂っていた。

 

駅に到着すると、乗客たちはゆっくりと車内から降りていった。

一人ひとりが、この電車に感謝の気持ちを込めて、手を振って見送る。

 

路面電車は、駅を発車し、ゆっくりと線路を走り始めた。

街の明かりが徐々に近づき、車窓の景色は刻々と変化していく。

 

そして、路面電車は、遂に車庫へと姿を消した。

長い間、人々の暮らしを支えてきた路面電車の役目は、

ここで終わりを迎えた。

 

チンチン電車

いつしかそう呼ぶようになった電車は

街の象徴であり、人々の心のふるさとであった。