popoのブログ

超短編(ショートショート)

引っ越しの日

午前中の光が、まだ眠そうな街を照らし始める。

カーテンの隙間から差し込む光に目を覚まされた私は、

深呼吸をして今日が来たことを実感した。

長年住み慣れたこの部屋とも、今日でお別れだ。

 

窓の外には、新しい生活が始まる場所への期待と、

この部屋との別れを惜しむ気持ちが入り混じった

複雑な感情が生まれていた。

 

部屋の中は、すでに段ボール箱で埋め尽くされていた。

思い出が詰まった本、子供の頃に描いた絵、

大切な人からもらったプレゼント。

一つ一つの荷物に手を触れるたびに、

様々な記憶が蘇ってくる。

 

ふと、子供の頃にこの部屋で飼っていた

猫の姿が目に浮かんだ。

一緒に遊んだぬいぐるみ、爪とぎの跡が残るソファ、

猫がいつも眠っていた窓際。

そのどれもが、猫との楽しい日々を思い出させてくれる。

 

リビングのテーブルの上には、

両親が結婚した時の写真が飾られていた。

若々しい両親の姿を見て、子供の頃を懐かしく思う。

この家でたくさんの家族の時間を過ごした。

誕生日パーティー、クリスマス、そしてたくさんの笑い声。

 

キッチンに立つと、母親が作ってくれた

手料理の香りがするような気がした。

あの頃の温かいご飯が、今でも忘れられない。

 

最後の荷物を運び出し、部屋を見渡す。

何もない真っ白な空間になった部屋は、どこか寂しい気がした。

 

玄関のドアを閉め、部屋を出る。

振り返ると、そこにはもう私の部屋はなかった。

 

新しい家に着くと、そこには広くて明るいリビングが広がっていた。

まだ何もない部屋に、少しずつ自分のものを置いていく。

 

夕暮れ時、窓から外を見ると、見慣れない景色が広がっていた。

新しい街、新しい生活。少し不安もあるけれど、

同時にわくわくする気持ちもいっぱいだ。

 

今日という日は、私にとって大きな転換期。

さよならを告げ、そして新しい始まりを告げる日。

この日のことを、きっと一生忘れないだろう。