深海の漆黒に、紅い影がゆらめいていた。
それは松葉ガニ、深海の貴公子と呼ばれる存在だった。
彼の甲羅は、深紅のルビーのように輝き、
鋭い眼光は、深海の闇を切り裂くようだった。
彼は孤独な王だった。
他のカニたちは、彼の異様な姿に恐れ慄き、近づこうとしなかった。
深海は静寂に包まれ、彼の心の奥底には、満たされない空洞が広がっていた。
ある日、彼は深海を漂いながら、一筋の光を見つけた。
それは、海底から湧き出る暖かい光だった。
光に導かれるように、彼はその源へと向かった。
そして、そこには、今まで見たことのない光景が広がっていた。
それは、小さな生物たちが集まって、幻想的な光を放つ群れだった。
彼らは、それぞれが異なる色や形をしており、
まるで宝石箱を開けたかのような美しさだった。
松葉ガニは、その光景に見とれて、思わず近づいてしまった。
すると、一匹の小さな生物が、彼のほうへ近づいてきた。
「こんにちは。あなたはとても美しいですね」と、
その生物は話しかけた。
松葉ガニは驚きを隠せない。
「君は、太いはさみを持った姿の僕を怖くないのか?」と尋ねると、
小さな生物は微笑んでこう答えた。
「外見なんて関係ないですよ。大切なのは、そのカニがどんな心を持っているかです。あなたは、とても優しい心を持っているように感じます」
小さな生物の言葉は、松葉ガニの心に温かい光を灯した。
彼は初めて、自分の存在を肯定された気がした。
そして、彼は決心した。もう、自分のことを隠す必要はない。
ありのままの自分として生きていくのだ。
それからというもの、松葉ガニは海を堂々と泳ぎ始めた。
彼の赤く硬い甲羅は、深海の中で一際輝きを放ち、
他の生き物たちを魅了した。
そして、彼は多くの仲間たちと出会い、
心から楽しい時間を過ごすようになった。
松葉ガニは、自分の違いを克服し、自分自身を愛せるようになった。
彼は、深海の孤独な王様から、
多くの仲間たちに愛される存在へと生まれ変わったのだ。