popoのブログ

超短編(ショートショート)

松葉ガニの葛藤

深海の漆黒に、紅い影がゆらめいていた。

それは松葉ガニ、深海の貴公子と呼ばれる存在だった。

彼の甲羅は、深紅のルビーのように輝き、

鋭い眼光は、深海の闇を切り裂くようだった。

 

彼は孤独な王だった。

他のカニたちは、彼の異様な姿に恐れ慄き、近づこうとしなかった。

深海は静寂に包まれ、彼の心の奥底には、満たされない空洞が広がっていた。

 

ある日、彼は深海を漂いながら、一筋の光を見つけた。

それは、海底から湧き出る暖かい光だった。

光に導かれるように、彼はその源へと向かった。

そして、そこには、今まで見たことのない光景が広がっていた。

 

それは、小さな生物たちが集まって、幻想的な光を放つ群れだった。

彼らは、それぞれが異なる色や形をしており、

まるで宝石箱を開けたかのような美しさだった。

松葉ガニは、その光景に見とれて、思わず近づいてしまった。

 

すると、一匹の小さな生物が、彼のほうへ近づいてきた。

「こんにちは。あなたはとても美しいですね」と、

その生物は話しかけた。

 

松葉ガニは驚きを隠せない。

「君は、太いはさみを持った姿の僕を怖くないのか?」と尋ねると、

小さな生物は微笑んでこう答えた。

「外見なんて関係ないですよ。大切なのは、そのカニがどんな心を持っているかです。あなたは、とても優しい心を持っているように感じます」

 

小さな生物の言葉は、松葉ガニの心に温かい光を灯した。

彼は初めて、自分の存在を肯定された気がした。

そして、彼は決心した。もう、自分のことを隠す必要はない。

ありのままの自分として生きていくのだ。

 

それからというもの、松葉ガニは海を堂々と泳ぎ始めた。

彼の赤く硬い甲羅は、深海の中で一際輝きを放ち、

他の生き物たちを魅了した。

そして、彼は多くの仲間たちと出会い、

心から楽しい時間を過ごすようになった。

 

松葉ガニは、自分の違いを克服し、自分自身を愛せるようになった。

彼は、深海の孤独な王様から、

多くの仲間たちに愛される存在へと生まれ変わったのだ。