変わらぬ朝が来た。
いつものように、コーヒーの香りが部屋に広がる。
窓の外には、若葉が眩い新緑が輝いている。
でも今日は何かが違う。
いつも通りの朝が、どこか特別に感じられる。
カレンダーに大きく赤字で書かれた日付。
娘の出発の日だ。
玄関先で、大きなスーツケースを抱えた娘の姿が見えた。
見慣れた顔なのに、どこか大人びて見える。
「もう、こんなに大きくなったんだな」
そう呟くと、娘は照れくさそうに笑った。
「パパ、いつもありがとうね」
娘の言葉に、込み上げてくるものがあった。
思い出がフラッシュバックする
娘の小さな手を握り、初めて公園に連れて行った日。
自転車の補助輪を外し、よろよろと走り出した日。
受験に合格した知らせを聞いた日。
一つ一つの思い出が、まるで昨日のことのように鮮明に蘇ってくる。
あっという間の20年。
不安と期待が入り混じる
「楽しんでこいよ」
そう告げようとしたその時、言葉が詰まった。
本当は、もっとたくさん話したいことがある。
「何かあったら、いつでも頼っていいんだよ」
「大丈夫、一人でできるから」
娘の言葉に、どこか寂しさを感じた。
同時に、娘の未来への期待と、
自分自身の過去の重ね合わせを感じている自分がいた。
見送る二人の間には、何も言わずとも通じ合うものがあった
空港へ向かう車中、二人は無言で窓の外を眺めていた。
娘の成長を嬉しく思う反面、これから一人で生きていく娘を案じる気持ち。
それは、父親として当然の感情なのだろう。
空港に着き、娘と最後のハグをした。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
娘の姿が見えなくなるまで、私は空港のロビーに立っていた。
これから、娘は一人で新しい世界を切り開いていく。
それは、少し寂しいような、
でもどこか誇らしいような、複雑な気持ちだ。
「また会おうな」
心の中でそう呟きながら、私は空港を後にした。
それから数年後、娘から一通の手紙が届いた。
「パパ、おかげさまで留学生活、充実しています。たくさんのことを学んで、大きく成長することができました。いつも感謝しています」
手紙を読みながら、私は静かに微笑んだ。
娘は、あの日よりも、もっと大きく羽ばたいている。