popoのブログ

超短編(ショートショート)

絵本作家と雨の音

雨音が窓を叩きつける。

部屋の中は、絵の具の匂いと、紙をめくる音だけが響いていた。

 

私は、窓の外をぼんやりと眺めていた。

雨粒が、アスファルトの上で小さな円を描いて消えていく。

その様子を、まるで物語の一コマのように感じてしまう。

 

最近、なかなか絵が描けない。

頭の中には、たくさんのアイデアが浮かぶのに、

いざ手を動かそうとすると、途端に白紙になってしまう。

何度も何度も描き直し、結局は何も残らない。

 

そんな時、私はいつも窓の外を見ることにしている。

雨の音を聞き、雲の流れを追いかける。

そうすることで、どこか心が落ち着くのを感じるのだろう。

 

子供の頃から、私は絵を描くことが好きだった。

クレヨンや絵の具で、自由に思ったことを表現するのが楽しかった。

大人になっても、その気持ちは変わらなかった。

むしろ、表現したいものがどんどん増えていった。

 

でも、プロの絵本作家になって、初めて壁にぶつかった。

読者の期待に応えたい、という気持ちと、

自分の表現したいものを両立させることの難しさ。

商業的な成功と、純粋な創作活動のバランス。

 

そんな葛藤の中で、私は何度も迷い、悩み、

そして立ち止まった。

でも、それでも絵を描くことを諦められなかったのは、

絵を描くことが、私にとって生きる喜びだからだ。

 

雨は、いつまでも降り続けている。

でも、そのうち必ず止む。

そして、虹がかかる。私は、そんな風に思っている。

 

いつか、また心から描くことができる日が来るだろう。

その日まで、私は、雨の音を聞きながら、静かに待つ。