popoのブログ

超短編(ショートショート)

凍りついた現金

12月10日の朝、東京・府中の街は、冬の息吹を肌で感じていた。

いつものように現金輸送車が府中工場に向かう。

その車内に積まれたのは、従業員たちの給料、3億円。

だが、その現金は、まもなく歴史に残る出来事の舞台となる。

 

白バイ警官を装った男が現れ、

ダイナマイトが仕掛けられていると脅迫。

巧妙な手口で現金輸送車を停車させ、現金3億円を奪取。

現場に残されたのは、発煙筒の煙と、人々の驚きと恐怖だけだった。

 

それから数十年。事件は迷宮入りとなり、

真犯人は未だに捕まっていない。

人々は、様々な憶測を立てた。

プロの犯行なのか、複数犯か、単独犯か、

それとも何かの間違いだったのか。

一体、現金はどこへ消えたのだ。

 

ある冬の夜、雪が降りしきる東京の街角で、

老人が一人、小さな喫茶店に入ってきた。

彼は、コートのポケットから、古い新聞記事を取り出した。

そこには、3億円事件のことが大きく報じられていた。

老人は、新聞記事をじっと見つめ、遠い目をして呟いた。

 

「あの日はただ、自由が欲しかっただけなんだ」。

 

老人は、かつての自分と重ね合わせながら、

事件当日のことを思い出していた。

 

彼は、計画を練り、実行に移した。

だが、現金を得た後、彼は大きな後悔に苛まれた。

そう。お金は、彼の心を満たすことはなかったのだ。

 

そして彼は孤独へと突き落とされた。

 

「一緒にコーヒーを飲む友人すらいないか…」

 

老人は、コーヒーを飲みほし、静かに店を出た。

彼は、雪が積もった道をゆっくりと歩きながら、

過去の自分と対峙していた。

 

「金さえあれば、何でも手に入ると思っていた。」

 

「でも、金だけでは、幸せにはなれなかった…」