彼が初めてテレホンカードを手にしてから、
もう20年以上の月日が流れていた。
子供の頃は、新しいカードが出るたびにワクワクし、
コレクションケースに並べるのが何よりの楽しみだった。
デザインの凝ったもの、キャラクターもののカードを手に入れると、
友達に見せびらかしたものである。
大人になった彼は、スマートフォンの普及とともに、
テレホンカードを使う機会はほとんどなくなった。
コレクションケースに入れたままになっているカードたちは、
まるでタイムカプセルのように、少年時代の記憶を呼び起こす。
ある日、ふとコレクションケースを開けてみた。
懐かしいカードの絵柄一つ一つに、
当時の自分が感じた高揚感や喜びが蘇ってくる。
しかし、同時に、どこか物悲しい気持ちにもなる。
「もう、こんなカードを使う人はいないんだろうな」
そう呟きながら、彼はカードを手にとってじっくりと眺めた。
カードの裏には、彼が丁寧に書き込んだ購入日や場所が記されている。
「このカードは、初めて一人で電車に乗って買いに行ったな。緊張したけど、すごく嬉しかったっけ」
「このカードは、友達と交換してもらったものだ。あの頃は、毎日一緒に遊んでたなぁ」
一つ一つのカードに、思い出が詰まっている。
まるで、自分の人生の一部を切り取ったような気がする。
スマートフォンで手軽に電話ができる時代になった今、
テレホンカードは過去の遺物となりつつある。
しかし、彼の心の中には、テレホンカードを集めていた
少年時代の記憶が、永遠に生き続ける。
後日、彼は思い切ってテレホンカードコレクションを整理することにした。
気に入っているカードは、アルバムに保管し、
それ以外はリサイクルに出すことにする。
最後のカードをアルバムに収めながら、彼は静かに目を閉じた。
そして、心の中でこう呟いた。
「ありがとう、テレホンカード。君たちのおかげで、楽しい子供時代を過ごすことができました」