popoのブログ

超短編(ショートショート)

ショートケーキと過去と未来

午後の陽光が差し込むカフェ。

窓際の小テーブルには、淡いピンク色の

苺のショートケーキが置かれていた。

瑞々しい苺の赤色が、白くてふわふわの

クリームの上でひときわ輝いている。

 

このケーキを見るたびに、

彼女はあの日のことを思い出してしまう。

 

彼が初めて買ってくれた苺のショートケーキ。

それは、二人の初めてのデートの日だった。

彼は照れながら、このケーキが彼女の好きなのを知っていたと言った。

一緒に食べたケーキは、甘くて、そして何よりも温かかった。

 

しかし、その恋は長くは続かなかった。

彼の転勤をきっかけに、二人の距離はどんどん離れていき、

最後は自然消滅のように終わってしまった。

 

何度も彼のことを思い出しては、泣いた。

甘い苺の香りは、切ない過去の記憶と結びついてしまい、

しばらくの間、苺を見るのも嫌だった。

 

それでも、時はゆっくりと流れ、

彼女は少しずつ前を向けるようになっていた。

仕事に打ち込み、新しい趣味を見つけ、たくさんの人と出会った。

そして、いつしか過去の彼は、心に小さな光の跡として残るようになった。

 

再び、苺のショートケーキと対面した彼女は、

複雑な気持ちを抱きながらも、フォークをケーキに突き刺した。

 

一口食べると、口の中に広がる甘酸っぱい味が、彼女の心を満たしていく。

 

あの日と同じように、ケーキは相変わらず美味しかった。

でも、もうあの日のように彼のことを意識することはなかった。

過去の恋は、彼女を成長させ、今の自分を作り上げた大切な経験だった。

 

窓の外には、春の花が満開に咲いていた。

春の訪れとともに、彼女の心にも新しい風が吹いている。

過去の恋を乗り越え、彼女は未来に向かって歩き出そうとしている。

 

甘い苺のショートケーキは、

彼女にとって、過去と未来を繋ぐ、

かけがえのないものとなった。