生まれたときから、世界は白黒だった。
茜色の夕焼けも、エメラルドグリーンの海も、
鮮やかな花々も、すべては陰影の濃淡でしか捉えられなかった。
彩色の世界は、私にとって永遠に手の届かない、
どこか遠い夢のようなものだった。
名前は、葵。
周りの人たちは、私が物事を深く考え込む子だとよく言った。
それは、色が見えない分、他の感覚を研ぎ澄ませ、
世界を理解しようとしていたからだろう。
ある日、私は新しい本を手にした。
そこには、様々な色が鮮やかに描かれていた。
ページをめくるたびに、説明文を読んでいた。
赤いリンゴは美味しそうだと、青い空は広大だと。
それらの言葉は、私の心に、見たことのない感情を呼び起こした。
「いつか、私もこんな世界を見てみたい」
そんな願いを胸に、私は毎日、色の名前を覚え、絵を描いた。
白黒の世界に、赤色や青色、緑色と書かれた鉛筆で少しずつ描いていった。
それは、私にとって、世界を創造することと同じだった。
そんなある日、いつものように絵を描いていたとき、
突然、部屋が明るくなった気がした。
そして、絵の中に描かれたリンゴが、
ほんの少しだけ、赤く輝いて見えたのだ。
「え?」
目を疑った。
何度も絵を見つめる。
すると、今度は青い空が、ほんのり青色に変化していた。
「これは…!」
私は、心臓がドキドキするのを覚えた。
もしかして、私は、色が見えるようになっているのかもしれない。
それからというもの、私の世界は一変した。
今まで白黒に見えていたものが、色とりどりに輝き始めた。
赤い夕焼けは、私の心を温かく包み込み、
青い海は、広大で自由な気持ちにさせてくれた。
私は、色のある世界で、たくさんの新しい発見をした。
花の香りは、色によって全く違うものだと知った。
鳥のさえずりは、色とりどりの景色の中で、より美しく響いた。
そして、私は気づいた。
色を見ることは、単に視覚的な体験だけでなく、
心の豊かさにもつながるということ。
世界は、思っていたよりもはるかに美しく、
そして、奥が深かった。
私は、色が見えないことで、
世界に対する見方が変わっていたのかもしれない。
陰影の濃淡でしか捉えられなかった世界だからこそ、
私は、形や質感、そして、
それらを生み出す光と影に、強い関心を抱いた。
色が見えるようになった今、私は、
以前よりももっと世界を深く理解できるようになった。
そして、私は、この経験を通して、どんな困難な状況でも、
希望を捨てずにいれば、必ず道は開けると信じることができるようになった。
私の物語は、私だけの経験ではなく、
誰もが心の奥底に持っている、
「何か新しいものを見つけたい」という願いと重なるだろう。
色が見えない少女が、初めて色を見たとき、
世界は、彼女にとって、再び輝き始めた。
そして、その光は、周りの人々にも、
そして、私にも、温かい希望を与えてくれた。