春の光が降り注ぐ三月三日。
内気で優しい女の子、七歳のひな。
ひなの一家は、代々受け継がれてきた美しい雛人形を飾り、ひな祭りを祝う。
しかし、ひなはどこか寂しげ。
なぜなら、彼女には友達がいなかったのです。
その夜、ひなが眠りにつくと、不思議なことが起こる。
飾られていた雛人形たちが、突然動き出したのです。
特に、三人官女の一人、
おすべらかし姿の官女が、ひなに優しく語りかけました。
「ひなさん、あなたは一人ではありません。私たちも、ずっとあなたを見守っています。」
驚くひなに、官女たちはひな祭りの由来や、人形に込められた願いを語ってくれました。
そして、ひなを雛人形の世界へと誘います。
そこは、美しくも不思議な世界でした。
ひなは、雛人形の世界で、様々な人形たちと出会いました。
元気いっぱいの五人囃子、優雅な右大臣と左大臣、
そして、美しいお雛様とお内裏様。
彼らは皆、ひなを温かく迎え、
一緒に歌い、踊り、楽しい時を過ごしました。
しかし、その中で、ひなは一人ぼっちの寂しさを抱える、自分とよく似たお雛様に出会います。お雛様は、ずっと昔から飾られているため、外の世界を知らず、友達もいませんでした。
ひなは、お雛様と友達になりたいと思い、毎日会いに行きます。
そして、外の世界の話や、友達と遊ぶ楽しさを伝えました。
ひなの優しい心に触れ、次第に笑顔を見せるようになるお雛様。
しかし、ひなには、人間の世界へ帰る時間が迫っていました。
別れの時、お雛様はひなに言いました。
「ひな様、あなたと出会えて、私は初めて本当の幸せを知りました。どうか、この美しい思い出を忘れないでください。」
ひなも涙ながらに、お雛様との別れを惜しみました。
そして、彼女は約束しました。
「私も、あなたとの友情を絶対に忘れません。そして、来年も必ず会いに来ます。」
翌朝、ひなは自分の部屋で目を覚ましました。
夢だったのでしょうか?
しかし、彼女の手には、お雛様からもらった小さな貝殻がありました。
それは、二つの世界を結ぶ友情の証でした。
それからのひなは、明るく前向きに変わりました。
雛人形の世界での経験を通して、彼女は友情の大切さを知り、
周りの人に優しく接するようになったのです。
そして、ついに本当の友達を見つけました。
そして翌年の、ひな祭りの夜、
ひなは再び雛人形たちに会いました。
お雛様は、以前よりもずっと輝いていました。
ひなは、お雛様に友達を紹介し、皆で喜びを分かち合いました。
ひな祭りは、ひなにとって、忘れられない特別な日となりました。
それは、雛人形との出会いを通して、彼女が心の成長を遂げた日。
そして、二つの世界を結ぶ、温かい友情が生まれた日でもありました。