都会の喧騒を乗せて、
エスカレーターはゆっくりと上昇していく。
私は、その流れに身を任せ、ぼんやりと前を眺めていた。
目の前を、様々な人々が通り過ぎていく。
老夫婦、楽しそうに笑い合う女子高生、
疲れた顔のサラリーマン。
その時、一瞬だけ、目が合った。
それは、向かいのエスカレーターに乗っていた、若い女性だった。
彼女は、少し驚いたような、
でもどこか温かい微笑みを浮かべていた。
その笑顔は、まるで春の陽だまりのように、
私の心を優しく包み込んだ。
ほんの一瞬の出来事だった。
エスカレーターがすれ違い、
彼女の姿は、人混みの中に消えていった。
しかし、その短い邂逅は、
私の心に小さな波紋を残した。
彼女は誰だろう?どこへ行くのだろう?
どんな毎日を送っているのだろう?
そんな、ささやかな好奇心が、胸の中に湧き上がってくる。
私たちは、毎日、数え切れないほどの人々とすれ違っている。
しかし、そのほとんどは、記憶に残ることなく、通り過ぎていく。
でも、時には、ほんの一瞬の出会いが、
心に深く刻まれることがある。
エスカレーターでの、彼女との出会いは、
私にとって、そんな特別な一瞬だった。
彼女の笑顔は、私に、日常の中に隠れている、
ささやかな美しさを思い出させてくれた。
そして、人との出会いの不思議さ、
尊さを、改めて感じさせてくれた。
エスカレーターを降りた私は、
少しだけ、心が軽くなったように感じた。
彼女に、また会えるだろうか?
そんなことを考えながら、
私は、人混みの中に足を踏み入れた。
もしかしたら、すぐそこで、
彼女と再会するかもしれない。
そんな、ありえないような期待を胸に抱きながら。