popoのブログ

超短編(ショートショート)

オリーブの木の下で

春の陽光が降り注ぐ丘の上、一人の女性、

エマがオリーブの木の手入れをしていた。

 

彼女の指先は、若葉の柔らかさを確かめるように

優しく枝をなぞり、その瞳は、

まるで恋人を見つめるかのように、

オリーブの木に向けられていた。

 

エマがオリーブの栽培を始めたのは、3年前のことだ。

慌ただしい生活に疲れ、自然の中で

ゆっくりと過ごしたいと願うようになった彼女は、

思い切ってこの丘の上の古民家に移り住んだ。

そして、庭に植えられていた一本のオリーブの木に、

なぜか心惹かれたのだ。

 

最初は戸惑うことばかりだった。

剪定の方法、肥料の与え方、害虫の駆除。

本を読み、インターネットで調べ、

近所の農家に教えを乞い、試行錯誤を繰り返す日々。

それでも、エマは諦めなかった。

オリーブの木が、彼女に生きる喜びを与えてくれたからだ。

 

夏には、太陽の光を浴びて緑色の実が輝き始めた。

エマは、その小さな実がゆっくりと成長していく様子を、

我が子の成長を見守るように、温かい眼差しで見つめた。

 

秋になり、実が紫色に変わると、一つ一つ丁寧に手で摘み取った。

そして、搾油機を使い、黄金色のオリーブオイルを抽出した。

 

そのオイルを口に含んだ時、エマは感動で胸がいっぱいになった。

それは、太陽と大地の恵みが凝縮された、まさに自然の贈り物だった。

彼女は、そのオイルを使い、パンを焼き、サラダを作り、

近所の人たちと分かち合った。

 

冬になると、オリーブの木は寒さに耐え、静かに春を待つ。

エマは、剪定した枝でリースを作り、部屋に飾った。

そして、暖炉の火を囲み、オリーブオイルを使った料理を楽しみながら、

来たる春に思いを馳せた。

 

オリーブの木を育てることで、エマは自然のリズムを感じ、

季節の移り変わりを慈しむようになった。

そして、何よりも、生きることの喜びを、改めて見出したのだ。

 

今日も、エマはオリーブの木の下で、幸せそうに微笑んでいる。

彼女の心は、オリーブの木と共に、穏やかな時を刻み続けている。