popoのブログ

超短編(ショートショート)

作業服と夫

「いってらっしゃい」

 

いつものように、そう言って夫を送り出した。

玄関のドアが閉まる音を聞きながら、

私は少しだけ物思いにふけっていた。

 

夫は町の小さな工場で働いている。

決して楽な仕事ではないけれど、

夫は文句ひとつ言わず、毎日黙々と仕事に向かう。

その背中は、私にとっていつも誇らしいものだった。

 

今日、私は夫の新しい作業服を買いに来ていた。

今着ているものがずいぶんと古くなったからだ。

 

作業服売り場に足を踏み入れると、

様々な種類のものがあって、少し戸惑ってしまった。

どれも同じように見えるけれど、素材も機能も違う。

「どれがいいのかしら…」

そう呟きながら、私はひとつひとつ手に取って確かめていった。

その時、ふと目に留まった作業服があった。

それは、他のものよりも少しだけ値段は高かったけれど、

とても丈夫そうで、機能性も高いものだった。

 

「これなら、夫もきっと喜んでくれるはず」

そう思って、私はその作業服をレジへと持っていった。

 

家に帰って、新しい作業服を広げてみる。

その丈夫そうな生地を見ていると、

夫が毎日この作業服を着て、

一生懸命仕事をしている姿が目に浮かんだ。

 

「いつもありがとう」

 

私は、夫への感謝の気持ちを込めて、作業服にそっと触れた。

 

次の日、新しい作業服を着た夫は、

いつものように笑顔で家を出て行った。

 

「似合ってるよ」

 

そう声をかけると、夫は少し照れくさそうに笑った。

その笑顔を見て、私は胸がいっぱいになった。

「今日も一日、頑張ってね」

私は、心の中でそう呟きながら、夫の背中を見送った。