popoのブログ

超短編(ショートショート)

初めてのお弁当

春の柔らかな陽射しがキッチンに差し込む。

真新しいお弁当箱を前に、

私は少し緊張した面持ちで立っていた。

今日から、初めて彼氏に作るお弁当が始まる。

同棲を始めて一週間。

まだ生活のペースも掴みきれていないけれど、

こうして彼の為に何かを作れることが、私の心を満たしていた。

 

「何を作ろうかな…」

 

冷蔵庫の中身を吟味する。

昨日の残りの肉じゃが、彩りの良いパプリカ、新鮮な卵。

彼の好きなものを思い浮かべながら、献立を組み立てていく。

普段は自分の為だけに作る簡単な料理ばかりだったけれど、今は違う。

彼の喜ぶ顔を想像するだけで、胸が高鳴る。

 

(失敗したらどうしよう…美味しくなかったら…)

 

ふと、不安がよぎる。

料理は得意な方ではない。

インターネットでレシピを検索したり、

母親に電話でアドバイスをもらったり、

昨日は何度も練習をした。

それでも、初めて彼に作るお弁当となると、

プレッシャーを感じてしまう。

 

卵焼きは少し焦げてしまったけれど、

愛情はたっぷり詰まっている。

彩りを考えて、ブロッコリーミニトマトを添えよう。

彼は唐揚げが好きだったから、小さめのものをいくつか。

隙間には、可愛らしい花形に切った人参を飾ってみた。

 

一つ一つのおかずを丁寧に詰めながら、

私は彼との日々を思い返す。

一緒に暮らし始めてから、彼の優しさや温かさに触れる毎日。

朝の寝顔、他愛ない会話、疲れて帰ってきた彼を癒したいという気持ち。

お弁当には、そんな私の愛情がぎゅっと詰まっている。

 

蓋を閉じる瞬間、少しドキッとした。

このお弁当が、彼にとってどんな一日の一部になるのだろう。

美味しいと思ってくれるかな。

午後の仕事の活力になってくれるかな。

 

玄関で「行ってきます」と笑顔で出ていく彼に、

私は少し照れながらお弁当を渡した。

 

「はい、これ」

 

彼は、少し驚いた表情で受け取ると、

すぐに笑顔になった。

 

「わあ、ありがとう! 楽しみだな」

 

その一言で、私の胸のつかえがスーッと消えていく。

作ってよかった。彼の笑顔が見られて、本当に嬉しい。

 

「夜、感想聞かせてね」

 

「うん、もちろんだよ!」

 

彼の背中を見送りながら、私は小さく息をついた。

今日のお弁当は、二人の新しい生活の、ほんの小さな一コマ。

これから、美味しい思い出をたくさん作っていきたい。

彼の好きな料理をもっと作れるように、私も頑張ろう。

 

お弁当箱には、

私の「いってらっしゃい」と「大好き」の気持ちが、

春の陽だまりのように優しく包まれている。