popoのブログ

超短編(ショートショート)

白亜紀の咆哮

夕焼けが西の空を茜色に染め上げる頃、

巨体を持つブラキオサウルスブロントは、

いつものように静かに草を食んでいた。

穏やかな風が、長く伸びた首を優雅になでる。

ブロントは、この広大な緑の大地が永遠に続くものだと信じていた。

仲間たちの優しい鳴き声、木々のざわめき、遠くを流れる川のせせらぎ。

それがブロントの世界のすべてだった。

 

しかし、その静寂は突然、終わりを告げる。

 

空が、見たこともないほどに赤く染まり始めたのだ。

それは、夕焼けとは全く異なる、不吉な赤黒い色。

ブロントは不安を感じ、巨体を揺らしながら顔を上げた。

遠くの空に、燃えるような光の筋が見えた。

それは、信じられないほどの速さで、

ブロントたちの世界に向かって落ちてくる。

 

大地が、今まで経験したことのない激しい揺れに襲われた。

ブロントはよろめき、必死に四肢を踏ん張る。

木々は根こそぎ倒れ、岩は砕け散る。

空からは、焼け付くような熱風と、黒い雨が降り注いだ。

 

ブロントは、何が起こったのか理解できなかった。

ただ、本能的に危険を感じ、仲間たちと共に

安全な場所へと逃げようとした。

しかし、あまりにも突然の出来事だった。

足元は崩れ、視界は煙で覆われている。

巨体を持つブロントにとって、逃げることは容易ではなかった。

 

小さなアンキロサウルスのアンキーは、

ブロントの足元で怯えていた。

普段は頑丈な鎧に身を包み、勇敢なアンキーも、

この圧倒的な破壊の前にはただの小さな生き物に過ぎなかった。

ブロントは、アンキーを庇うように巨体を傾けた。

 

やがて、空から降り注ぐ黒い雨は、大地を灰色に変えていった。

植物は枯れ、川は泥で濁り、世界は急速に死の色に染まっていく。

ブロントの仲間たちも、次々と倒れていった。

彼らの力強い咆哮は、悲痛な叫びへと変わり、

やがて静寂に飲み込まれていった。

 

ブロントは、最後まで立っていた。

燃えるような空を見上げ、

失われた仲間たちを思い、深い悲しみに暮れた。

かつて緑に溢れていた大地は、

今や焼け野原。優しい風は熱風に変わり、

生命の息吹は消えようとしていた。

 

ブロントの長い生涯が、走馬灯のように脳裏をよぎる。

仲間たちと分け合った食事、太陽の下での昼寝、

危険な肉食恐竜から逃げた日々。

それらは全て、遠い過去の幻のようだ。

 

最後に、ブロントは大きく息を吸い込んだ。

乾いた喉を震わせ、精一杯の声で咆哮した。

それは、失われた世界への哀悼の歌であり、

生き残った者たちへの鎮魂歌だった。

その咆哮は、燃え盛る大地に虚しく響き渡り、

やがて静かに消えていった。

 

ブロントの巨体は、ゆっくりと地面に倒れた。

その大きな瞳からは、一筋の涙がこぼれ落ちたように見えた。

それは、白亜紀の終焉を告げる、悲しくも壮大な光景だった。

 

ブロントが最後に見た空は、どこまでも暗く、

二度とあの優しい夕焼けを見ることはなかった。

しかし、ブロントの咆哮は、遠い未来の地層の中に、確かに刻まれたのだ。

巨大な恐竜たちが生きた証として、

そして、その壮絶な最期を語る物語として。