popoのブログ

超短編(ショートショート)

七人の侍

降りしきる雨の中、寂れた寒村に野盗の影が忍び寄る。

薄汚れた着物が泥に濡れるのも厭わず、老婆は懸命に走っていた。

背負ったわずかな米俵が、飢えた村人の命綱だ。

しかし、鬼のような野盗の影が、苦しめている。

 

「いいか。次は年貢の米を頂きに来るからな。」

 

捕まった老婆に野盗は言いつけた。

途方に暮れる百姓たち。

長老の儀助は、最後の望みを託し、都へ侍を探しに行くことを決意する。

 

「侍様、どうか我々をお助けください!」

 

都で出会ったのは、勘兵衛という隻眼の浪人。

かつては武名を馳せたが、今は静かに暮らしていた。

百姓たちの悲痛な訴えに、勘兵衛の胸に眠っていた武士の魂が再び燃え上がる。

「面白き戦、致そうぞ」。

 

しかし、金のない百姓にできることは少ない。

それでも、勘兵衛の呼びかけに応じ、

腕利きの侍たちが一人、また一人と集まってくる。

剣術に長けた五郎兵衛、豪放磊落な七郎次、弓の名手である平八、

そして、身分を偽って侍に憧れる百姓上がりの菊千代。

それぞれが過去を背負いながらも、

百姓たちを守るという一点で固く結ばれていく。

 

村に着いた七人は、野盗との戦いに備え、

村全体を砦のように作り変えていく。

百姓たちも、鋤や鍬を手に、侍たちと共に立ち上がろうとする。

最初は頼りなかった彼らの目に、次第に覚悟の色が宿っていく。

 

そして、野盗の群れが村を襲う。

雨の中、泥まみれになりながらの激しい攻防。

刀が唸り、槍が突き刺さり、矢が雨音を切り裂く。

侍たちはそれぞれの技と知略を尽くし、百姓たちは懸命に戦う。

犠牲も出しながら、幾度もの襲撃を退けていくうちに、

侍と百姓の間に、言葉を超えた強い絆が生まれていく。

 

最後に残った野武士の頭領との一騎打ち。

勘兵衛は死闘の末、これを討ち取る。

長く苦しい戦いが終わり、村には静けさが戻った。

 

去りゆく勘兵衛に、一人の農夫が深々と頭を下げる。

「侍様、本当にありがとうございました。」

「いや。守ったのはお前たちだ。」

そう言って、勘兵衛は、村を後にした。

 

しばらくして、勘兵衛は

泥だらけの刀を杖代わりに立ち止まり、田畑を見つめた。

そこに広がるのは、侍たちの犠牲の上に築かれた、静かで力強い営み。

しかし、生き残った侍は

勘兵衛、七郎次、菊千代の三人だけだった。

 

静かに佇む墓標。

土に還った四人の侍たちの無念を思うと、言葉が見つからない。

 

夕焼け空の下、百姓たちは田んぼで米を刈り始める。

その姿を、高台から見下ろす勘兵衛。

「結局、勝ったのは百姓たちか…」。

 

菊千代は、子供たちと泥だらけになって遊んでいる。

その笑顔は、どこまでも明るい。

 

戦いは終わった。失われた命は戻らない。

それでも、村には確かに、明日への希望が芽生えている。

 

七人の侍たちの勇気と魂は、

この村の土に深く根を下ろし、

未来へと繋がっていくのだ。