popoのブログ

超短編(ショートショート)

小さなうどん屋さん

それは、湯気が立ち上る温かいうどんの香りが漂う、

近所の小さなうどん屋さんでのこと。

カウンターの隅のいつもの席に、僕は座っていた。

 

背中が少し丸まったおばあちゃんはゆっくりと、

厨房から向かって優しく僕に声をかけた。

 

「おまたせしました。」

 

「この間、庭でね、ちょっとだけ良いナスが採れたんだ。もしよかったら、お味見にでも。」

 

そう言って、おばあちゃんは小さな小鉢をカウンターに置いた。

中には、つやつやと紫色に輝く、小さく切られた揚げナスが、

ほんの少しだけ入っていた。

 

僕は、少し驚いた顔をして、でもすぐににっこりと笑った。

「ありがとうございます。おばあちゃんの畑のナスは美味しいんですよね。いただきます。」

 

おばあちゃんは、少し照れたように目を細めた。

「いえいえ、ほんの気持ちですから。いつも来てくれるお礼ですよ。」

 

僕は、その小鉢を大切そうに受け取ると、

「おばあちゃんのお気持ち、ちょうだいしますね。」と言った。

 

おばあちゃんは、その言葉を聞いて、

ふっと安心したような、優しい笑顔を見せた。

 

僕はゆっくりと箸を取り、うどんの湯気をすすりながら、

どこか満足そうな表情を浮かべ、ナスを頬張る。

 

それは、ただのナスのおすそ分けではありません。

長年この町に住み、このうどん屋さんを

愛してきたおばあちゃんの、日頃の感謝の気持ち。

 

言葉にするのは少し照れくさいけれど、

美味しいものを少しでも分かち合いたいという、

温かい心遣いのかたち。

 

僕もまた、その気持ちをしっかりと受け止め、

今日もまた、この小さなうどん屋さんには、

ささやかな温かさが広がっていくのです。