popoのブログ

超短編(ショートショート)

わが魂の歌

「ああ、この歌ですよ、この歌こそが、私の人生そのものなんです!」

 

男は、少し焼けた色褪せた手帳を握りしめ、目を輝かせた。

茶店の少しざわついた空気の中で、彼の声はひときわ熱を帯びていた。

 

『死ぬるまで/歌ふとぞ思ふ/わが魂の/燃え尽くるまで/歌ふとぞ思ふ』

 

「初めてこの歌に出会ったのは、私がまだ本当に若くて、何者でもなかった頃です。将来への漠然とした不安と、胸の奥でくすぶる情熱を持て余していました。そんな時、ふと目にした歌集の中に、この短い言葉たちが、稲妻のように私の心に突き刺さったんです。」

 

彼は少し声を詰まらせ、遠い日の記憶を辿るように目を閉じた。

 

「その瞬間、全身が震えました。ああ、そうだ、私もこうありたい、と。たとえこの身が朽ち果てようとも、魂が燃え尽きるその瞬間まで、歌い続けたい。それは、声に出して歌うということだけではありません。私の場合は、絵を描くことでした。キャンバスに向かい、筆を走らせる。それはまさに、私の魂が叫び、歌っている時間なんです。」

 

男は再び手帳を開き、その一節を指でなぞる。

 

「生きていれば、色々なことがあります。喜びもあれば、悲しみも、苦しみも、挫折も。何度も、もうだめだと、筆を折ってしまおうと思ったこともありました。でも、そんな時、この歌がいつも私を支えてくれたんです。『燃え尽きるまで』ですよ。まだ燃え尽きていないじゃないか、まだ歌えるじゃないか、と。魂の炎が小さくなっても、残り火のように、かすかにでも熱を帯びている限り、私は表現することをやめるわけにはいかないんです。」

 

彼は力強く頷く。

 

「私の絵は、決して多くの人に評価されるものではないかもしれません。それでもいいんです。誰のためでもない、私の魂の叫びなんです。この歌が教えてくれたのは、他でもない、自分の内なる声に正直に生きること。そして、その声を表現し続けることこそが、生きるということなんだ、ということです。」

 

男は熱い視線を私に向けた。

 

「だから、私はこれからも描き続けます。たとえ明日、この命が尽きようとも、今日まで描き続けてきた証は、確かにここに残る。私の魂の歌は、この絵を通して、わずかでも誰かの心に響くかもしれない。そう信じて、最後まで、情熱の炎を燃やし続けたいんです。」

 

彼の言葉は、静かな喫茶店の中に、力強い余韻を残した。

それは、短い歌に込められた、

一人の男の意思を貫く、熱く純粋な決意表明だった。