舞台は、人間がほとんど立ち入らない、深い森の奥深く。
そこには、古木の洞を住処とする小さなミツバチのコロニーがありました。
女王蜂のエルダは、経験豊かで優しい眼差しを持つ老いたミツバチ。
働き蜂たちは、春の訪れとともに、蜜を集めるために飛び回っていました。
そのコロニーに生まれた一匹の若い働き蜂、リーフ。
他の働き蜂と比べて、少しだけ体が小さく、
羽の色もほんの少しだけ薄いリーフは、
どこか内気な性格でした。
初めての蜜集めの飛行で、
リーフは群れからはぐれてしまいます。
見慣れない景色、聞いたことのない鳥の声。
不安でいっぱいになったリーフは、
森の中で一休みしようと、
大きな白い花に降り立ちました。
その花は、今まで見たどの花よりも大きく、
甘い香りを放っていました。
花の中心には、小さな小さな虫が動いています。
それは、アブラムシでした。
アブラムシは、花の蜜を吸い、苦しそうにしています。
リーフは、本能的に蜜を集めようとしましたが、
その小さな虫の悲しそうな様子が気になりました。
「どうかしたの?」
リーフは、勇気を出してアブラムシに話しかけました。
アブラムシは、弱々しい声で言いました。
「お腹が空いて動けないんだ。でも、この花にはもう少ししか蜜がないんだ…」
リーフは、自分の蜜嚢には
まだ少し蜜が残っていることに気づきました。
それは、自分が初めて集めた、大切な蜜。
でも、この小さな命を助けたいという気持ちが、
その大切さを上回りました。
「よかったら、私の蜜を少し分けてあげるよ」
リーフは、そう言って、
自分の蜜をアブラムシに分け与えました。
アブラムシは、感謝しながら蜜を吸いました。
みるみるうちに元気を取り戻し、リーフに言いました。
「ありがとう、親切なミツバチさん。お礼に、この花の蜜がまだ隠れている場所を教えてあげるよ。」
アブラムシに導かれ、リーフは花の奥深くにある、
まだ誰も見つけていない蜜の源を見つけました。
それは、リーフ一匹では運びきれないほどの、豊かな蜜でした。
リーフは、急いで巣に戻り、仲間たちにそのことを伝えました。
エルダ女王をはじめ、働き蜂たちは
リーフの言葉を最初は信じませんでしたが、
リーフの真剣な様子に心を動かされ、
一緒にその花へと向かいました。
そして、彼らは信じられない光景を目にします。
大きな白い花には、
溢れんばかりの蜜が蓄えられていたのです。
コロニーの仲間たちは、力を合わせてその蜜を運び、
巣は豊かな蜜で満たされました。
その日以来、内気だったリーフは、
勇気あるミツバチとしてコロニーの仲間たちから
尊敬されるようになりました。
エルダ女王は、リーフの優しさと勇気を称え、言いました。
「小さな体にも、大きな優しさと勇気が宿っているのですね。」
リーフは、初めて自分が誰かの役に立てた喜びを知りました。
そして、小さな行動でも、誰かの心を温め、
大きな喜びを生み出すことができるのだと学んだのです。
森の奥深くの小さなコロニーでは、
今日もミツバチたちが仲良く飛び回り、
甘い蜜を集めています。
その中心には、少しだけ羽の色の薄い、
優しい心のミツバチ、リーフがいるのです。