むかしむかし・・・
と言ってもそう大昔じゃない、
日本のどこかの町に、古くてボロボロだけど、
なんだか懐かしい香りのする野球場がありました。
その野球場の外野スタンドには、とある秘密がありました。
そこには、フェンスからちょこっとだけ突き出た、
オレンジ色の不思議な「ラッキーゾーン」があったのです。
このラッキーゾーン、実は昔、
ホームランが出やすくなるようにと設置された名残なのですが、
時代の流れと共に撤去されていき、
この球場だけが、なんだか忘れ去られたように残っていたのです。
そして、このラッキーゾーンにまつわる、
とある噂がまことしやかに囁かれていました。
「あのラッキーゾーンにボールが飛び込むと、球場全体に幸せが降り注ぐ」
もちろん、科学的な根拠なんて一切ありません。
でも、この球場のファンたちは、
その噂を心の底から信じていました。
ある日、地元の子ども野球チーム「ドリームズ」が、
大きな大会の決勝戦を迎えることになりました。
ドリームズは、いつも元気いっぱいのチームでしたが、
なかなか優勝に恵まれない、ちょっとお茶目なチームでした。
決勝戦の相手は、強豪「ロケッツ」。
ロケッツのピッチャーは、
まるでロケットのように速い球を投げる、
町で一番の剛腕でした。
試合は、ロケッツの猛攻にドリームズが守り切る展開。
ドリームズの選手たちは、エラーしても笑い飛ばし、
三振しても「次があるさ!」と前向きでした。
でも、さすがに点差が開き始めると、
みんなの顔から笑顔が消え始めました。
最終回、0対3。ロケッツリード。
ドリームズ最後の攻撃は、ツーアウト満塁。
ドリームズは、まさかのチャンスを迎えます。
バッターは、チームで一番小さくて、
いつもニコニコしているムードメーカー。
彼は、バットを構えながら、
そっとレフトのラッキーゾーンを見上げました。
カウントはツーボール、ツーストライク。
ロケッツのピッチャーが渾身の力を込めて投げます。
球は、唸りを上げて彼をめがけて飛んできました。
彼は、なんと…目をぎゅっと閉じて、渾身のスイング!
「目を開けろ!」という声と同時に、
カキーン!
乾いた音が球場に響き渡りました。
ボールは、高々と舞い上がり、
レフトスタンドへ一直線!
球場にいる誰もが息をのんでその行方を見守ります。
そして、信じられないことに、ボールは、
レフトのオレンジ色のラッキーゾーンに、
ポトリと吸い込まれていったのです!
「入ったぁあああああ!」
球場全体が、割れんばかりの大歓声に包まれました。
まさかの逆転サヨナラ満塁ホームラン!
その瞬間、不思議なことが起こりました。
球場にいる全員の顔に、満面の笑顔が咲き乱れたのです。
それだけではありません。
球場上空には、虹がかかったのです。
売店のおばちゃんは、
なぜか普段より多くポップコーンをサービスし、
審判のおじさんは、普段より大きな声で
「ゲームセット!」と叫びました。
ドリームズの選手たちは、
ホームベースで円になって大騒ぎ。
ロケッツの選手たちも、最初は悔しそうでしたが、
なぜか最後はみんな笑顔で拍手を送っていました。
試合後、球場を出る人々は、
みんなスキップしながら家路につきました。
商店街では、いつもより値引きされている商品が増え、
公園では、なぜか子どもたちが一斉にブランコに乗り始めました。
ラッキーゾーンへのホームランは、
単なる逆転劇にとどまらず、
その日一日、町全体を明るく、楽しく、
そしてちょっぴりおかしな幸福感で満たしたのです。
それ以来、その野球場は
「ラッキー球場」と呼ばれるようになり、
球場を訪れる人々は、誰もが
「もしかしたら、今日もラッキーゾーンに幸せが飛び込むかもしれない!」と、
わくわくしながら試合を楽しみにするようになりました。
そして、その町は、いつも笑顔と笑い声に満ち溢れる、
日本一元気な町になったとさ。