popoのブログ

超短編(ショートショート)

ふたりの花火

リョウとサキは、結婚して3年になる夫婦だった。

誰もが羨むような理想のカップルと言われた二人の間に、

いつの間にか溝ができていた。

 

リョウはIT企業のプロジェクトリーダーとして多忙を極め、

サキもアパレル業界で管理職を務め、

日々神経をすり減らしていた。

共に働くことは好きだったが、

その忙しさが、二人の時間を蝕んでいった。

 

朝はすれ違い、夜は疲れて口数も少なくなる。

週末も、どちらかが仕事を持ち帰ったり、友人の誘いを優先したりと、

二人で過ごす時間はめっきり減っていた。

会話も、事務的な連絡事項ばかりになり、

昔のような他愛もないおしゃべりはほとんどなかった。

 

ある日、サキがリョウに

「今年の花火大会、一緒に行かない?」と誘った。

以前は毎年楽しみにしていたイベントだったが・・・

 

リョウは一瞬、顔を曇らせた。

 

「ごめん、その日はもしかしたら仕事が入るかも」

という言葉に、サキは深く失望した。

 

結局、リョウは仕事を調整し、

花火大会へ行くことになったが、

サキの心には諦めにも似た感情が渦巻いていた。

 

花火大会当日。

人混みの中、手をつなぐこともなく並んで歩く二人には、

どこかよそよそしい空気が漂っていた。

屋台の賑わいも、周りの楽しそうなカップルの声も、

二人の間には届かない。

 

花火が打ち上がる直前、リョウが不意に口を開いた。

「あの花火、初めて二人で見た時の花火に似てるね」。

サキはハッとしてリョウの顔を見た。

それは、付き合い始めた頃、

初めて二人で訪れた花火大会での出来事だった。

 

「うん、そうだね。あの時も、こんな風に綺麗だった」

とサキが答えると、リョウは少し照れたように

「あの時の花火は、サキとの大切な思い出だ」と続けた。

その言葉に、サキの胸に温かいものが込み上げた。

 

最後の花火が夜空に大きく開いた。

 

パーン、と乾いた音と共に、色とりどりの光が降り注ぐ。

その光が二人の顔を照らし出すたびに、忘れていた思い出が蘇る。

初めてデートした日のこと、ケンカして仲直りした日のこと、

そして、リョウがプロポーズしてくれた日のこと……。

一つ一つの花火が、二人の愛の軌跡を彩る写真のように、脳裏に焼き付いていく。

 

「最近、全然話せなかったね」と、リョウがポツリと言った。

「うん。ごめんね」とサキが謝ると、

リョウはそっと沙織の手に触れた。

「俺もごめん。サキが寂しい思いしてたのに、気づいてやれなくて」。

 

夜空に大きく開いた大輪の花火が、

二人の間のわだかまりを溶かすように、優しく心を包み込んだ。

それは、まるで二人の心を繋ぎ直す光の鎖のようだった。

自然と互いの手を握り合い、見つめ合う二人。

花火の光が、二人の潤んだ瞳を照らしていた。

 

花火が終わると、二人は自然と体を寄せ合っていた。

帰り道、リョウがサキの肩を抱き寄せた。

久しぶりに感じるリョウの温かさに、サキは安堵のため息をついた。

 

「明日から、また一緒にご飯食べようね」とリョウが言うと、

サキは「うん!」と満面の笑みで答えた。

 

花火は、失いかけていた二人の絆を再び結び直してくれた。

それは、ただ美しいだけでなく、互いを思いやる気持ち、

そして二人の大切な思い出を呼び覚ます、特別な光だった。

この日を境に、リョウとサキは、

忙しい中でもお互いを思いやる時間を作り、

再び笑顔の絶えない夫婦へと戻っていった。