<深夜の森の訪問者>
私の実家は山奥にあり、周囲は深い森に囲まれています。
幼い頃から、父には
「日が暮れたら絶対に森に近づくな」と言われていました。
その言葉の本当の意味を知ったのは、私が大学生になり、
久しぶりに実家に帰省した夜のことでした。
その日は蒸し暑く、寝苦しかったので、
私は窓を開けて寝ていました。
深夜、ふと目を覚ますと、
最初は木の枝が風で揺れる音だと思っていましたが、
その音は明らかに規則的で、何かを引っ掻いているような響きでした。
妙に胸騒ぎがして、私は恐る恐る窓の外に目をやりました。
月明かりに照らされた庭には、巨大な影がうごめいていました。
それは、四つ足で、やけに長い爪を持ち、
何かを貪っているようでした。
私は息を殺してその影を凝視しました。
すると、その影がゆっくりと頭を上げ、私の方を向いたのです。
闇の中でもはっきりとわかる、赤く光る二つの目。
そして、口元には、白い何かがべったりと付着していました。
その白いものが何なのか理解した瞬間、
私の背筋に冷たいものが走りました。
それは、飼っていた白い犬の毛だったのです。
私は絶叫する寸前で口を塞ぎ、布団の中に潜り込みました。
翌朝、庭に出てみると、そこには血痕と、
引き裂かれた犬の首輪だけが残されていました。
父は何も言いませんでしたが、その日以来、
私の実家では、深夜に窓を開けることは許されなくなりました。
そして、私はあの夜の「訪問者」の正体を、
今でも考えるたびに震えが止まりません。
<閉鎖された動物園の囁き>
友人と肝試しで、廃墟となった動物園へ忍び込んだ時の話です。
その動物園は、数十年前に謎の伝染病で
動物が大量死し、閉鎖されたと聞いていました。
夜の動物園は、不気味な静けさに包まれ、
檻の中からは動物たちの残像が感じられるようでした。
私たちは懐中電灯の光を頼りに、園内を進んでいきました。
猿山の前を通りかかった時、ふと、どこからか
「ヒュー、ヒュー」という細い声が聞こえてきました。
まるで、誰かが風邪をひいて喘いでいるような音です。
私たちは気味が悪くなり、その場を離れようとしましたが、
その声は追いかけてくるように大きくなっていきます。
そして、唐突に、耳元で囁くような声が聞こえました。
「…飢えている…」。
振り返ると、そこには何もありません。
しかし、その声は何度も、しつこく、私に囁きかけます。
「…もっと…肉を…」。
私たちは恐怖のあまり走り出し、出口を探しました。
その時、ライオンの檻の前を通りかかったのですが、
そこで私たちは凍りつきました。
檻の中には、確かにライオンの骨が残されていました。
そして、その骨のそばには、なぜか、
人間の指のようなものが落ちていたのです。
私たちは動物園で見たことを誰にも話しませんでした。
しかし、私たちは未だに、深夜になると
あの動物園の囁きが耳元で聞こえることがあります。
「…飢えている…もっと…肉を…」
そして…
何より恐ろしいのは、この二つの出来事が
6月6日に起きた出来事なのです。