「俺にとってロックンロールは、ただの音楽じゃない。生き様そのものだ。」
彼はそう言って、くしゃくしゃになったタバコを深く吸い込んだ。
年の功を感じさせる深い皺が刻まれた顔には、
数えきれないほどのステージで浴びてきた
スポットライトの残像が焼き付いているようだった。
「初めてギターを手にしたのは、15の時だったな。あの頃の俺は、何にも縛られたくない、自由になりたいって気持ちでいっぱいだった。学校も親も、社会のルールも、全部クソだと思ってた。」
彼は遠い目をして、天井の染みを見つめる。
「そんな時、ラジオから流れてきたのが、エルヴィスの『ハートブレイク・ホテル』だった。あの瞬間、俺の人生は完全にひっくり返った。電流が走るって、まさにあのことだ。こんなにも魂を揺さぶられる音楽があるのかって。」
熱っぽく語る彼の声は、少し掠れている。
長年のシャウトとウィスキーが原因だろう。
「それからだ、俺がステージに立つようになったのは。最初は小さなハコで、客もまばらだった。でも、俺はいつも全身全霊で歌った。魂を削るように、ギターをかき鳴らした。だって、それが俺の唯一の表現方法だったから。胸の奥底に渦巻く、誰にも理解されない苛立ちや悲しみ、そして、それでも光を信じたいって気持ちを、全部音に乗せたんだ。」
彼は空になった灰皿を睨みつけ、新しいタバコに火をつけた。
「ロックンロールは、俺を救ってくれた。どん底にいた俺に、生きる意味を教えてくれた。ステージの上で、ギターを抱えて歌っている時だけが、俺が本当に俺でいられる瞬間だった。客の顔を見ろ。みんな、何かを求めてる。何かを叫びたがってる。俺の歌が、その叫びを少しでも代弁できたら、それ以上の喜びはない。」
彼の瞳は、熱い炎を宿していた。
「もちろん、苦しいこともたくさんあった。金はない、女には逃げられる、身体はボロボロだ。それでも、俺は辞めなかった。だって、俺はロックンローラーだからだ。ロックンロールは、俺の血であり肉だ。これをなくしたら、俺はただの抜け殻になっちまう。」
彼は力強くそう言い放ち、ゆっくりと立ち上がった。
「今日だって、またステージに立つ。俺の人生のすべてを賭けて、最高のロックンロールを届ける。それが、俺の使命だからだ。俺が死ぬまで、この魂の叫びは止まらない。ロックンロール・イズ・ノット・デッド!永遠に燃え続けるんだ!」
彼の背中は、年老いてもなお、力強く、
そして、どこまでも熱かった。
その姿は、まるでロックンロールの神話が、
今もなお生き続けていることを示しているようだった。