1947年、ニューメキシコ州のとある町。
果てしない砂漠の真ん中にぽつんと立つ牧場で、
マックはいつも通りの一日を過ごすはずだった。
強い日差しがトタン屋根を焦がし、
カウボーイハットの下で汗がにじむ。
その日の夜、牧草地に雷鳴のような
轟音が響き渡り、空が不気味な光で染まった。
マックは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
翌朝、牧草地には見慣れない金属片が散らばっていた。
それは、これまで見たことのない、奇妙で、
それでいて驚くほど軽い素材だった。
マックは保安官に連絡した。
現場に駆けつけた保安官もまた、この光景に言葉を失った。
すぐに軍が動き出し、陸軍航空基地のマーセル少佐が調査に乗り出した。
マーセル少佐は、墜落した物体が「空飛ぶ円盤」であると確信した。
彼はこの世紀の発見に興奮し、基地の広報はすぐにその旨を発表した。
そのニュースはまたたく間に世界中を駆け巡った。
誰もが空飛ぶ円盤の姿を想像し、
宇宙人が地球にやってきたと色めき立った。
しかし、その熱狂は長くは続かなかった。
わずか数時間後、基地から訂正発表が出された。
「回収されたのは、空飛ぶ円盤ではなく、気象観測気球の残骸である」。
記者会見の席に座るブリッジ准将は、完璧な笑顔で説明した。
その隣には、疲労困憊の表情を隠しきれないマーセル少佐がいた。
少佐は、自分が実際に見たものが何であったかを語ることを許されず、
ただ黙って准将の言葉を聞いていた。
この突然の方向転換は、かえって人々の疑念を深めた。
牧場主のマックは、気象観測気球などとは
似ても似つかない残骸をこの目で見ていた。
奇妙な模様が施された金属片、信じられないほどの軽さ、
そして決して燃えない性質。
これらが一体、気球の破片だというのか?
彼の目撃談は、すぐに軍によって封じられた。
家族や友人にも口止めがされた。
マックは、まるで自分が狂ってしまったかのように感じ始めた。
基地の地下深く、厳重に警備された研究室があった。
そこでは、回収された物体の一部と、そして、
その物体と共に発見されたものが運び込まれていた。
それは、人間ではなかった。
身長は低く、頭部は大きく、目は黒く細長い。
皮膚は灰色で滑らか。指は四本。
その生物は、冷たい解剖台の上に横たわっていた。
基地の一部の科学者と医師たちは、
この信じられない光景を目の当たりにしていた。
彼らは極秘裏に解剖を行った。
内部構造は地球上の生物とは全く異なり、
驚くほど複雑で、それでいて完璧に効率的だった。
彼らが持ち合わせていた技術や知識では、
その生物の全てを理解することは不可能だった。
医師の一人、ドクター・リーは、その生物の目に魅せられた。
それはまるで、遠い星々を見つめてきたかのような、
無限の知性を宿しているように見えた。
彼は、この生命体がなぜ地球に墜落したのか、
そして彼らが何を求めていたのかを知りたいと強く願った。
しかし、政府の命令は絶対だった。
この発見は、人類の歴史を根底から覆す可能性を
秘めていたがゆえに、完全に秘匿されることになった。
関連する全ての資料は焼却され、
関わった者たちは口外しないよう
厳重な監視下に置かれた。
ドクター・リーは、その日の出来事を生涯忘れられなかった。
彼は、人類がまだ、
真実を受け入れる準備ができていないことを悟った。
数十年が過ぎ、この事件は都市伝説として語り継がれるようになった。
気象観測気球説を信じる者、
政府の隠蔽工作を疑う者、
そして宇宙人の存在を確信する者。
様々な憶測が飛び交い、この地はUFOの聖地となった。
マックは、老いて牧場を去った。
彼は決して、あの日の真実を口にすることはなかったが、
その目に宿る光は、あの夜の出来事を鮮明に記憶していた。
ドクター・リーは、引退後も
密かにUFOに関する資料を集めていた。
彼は、いつか人類が真実を知る日が来ると信じていた。
彼の死後、残された日記には、
あの灰色の肌を持つ生物のスケッチと、こう記されていた。
「彼らは、私たちを観察していた。そして、我々は彼らを理解しようともしなかった。真実は、錆びたトタン屋根の向こう側で、今も静かに横たわっている。」
この地の砂漠には、今も風が吹き荒れる。
そしてその風は、誰にも知られることなく、
遠い星からのメッセージを運び続けているのかもしれない。
もしかしたら、真実は私たちが見ようとしない場所に、
隠されているだけなのかもしれない。