うだるような日本の夏の日、セミの声が降り注ぐ午後。
僕と兄は、リビングの床に転がり、
汗だくになってテレビゲームに興じていた。
対戦ゲームの熱気とクーラーの冷気が混じり合い、
独特の蒸し暑さが部屋にこもる。
「くっそー!そこは守りに入んなよ!」
兄がコントローラーを握りしめ、叫ぶ。
「兄ちゃんこそ、攻めすぎなんだって!俺の勝ち!」
僕も負けじと叫び返す。
画面の中のキャラクターが爆発音と共に消滅し、
僕の勝利を告げる「WINNER」の文字が光る。
「ちくしょう!もう一回だ!」
「いいよ!何回でもやってやる!」
僕たちの戦いは、もはやゲームの勝敗を超えた
意地の張り合いになっていた。
そう、この激しい戦いの裏には、
ある大きな「目的」があったのだ。
それは、冷蔵庫でキンキンに冷やされた、
ただ一本のあずきバー。
数日前、
母さんが買ってきたあずきバーを巡って、
僕たちは些細な口論になった。
結局、「次のゲーム対決で勝った方が食べる」という、
子供じみた、しかし僕たちにとっては
至上命令ともいえるルールが設けられたのだ。
僕たちは汗だくになりながら、
何戦も何戦もゲームを続けた。
一進一退の攻防が続き、お互いの集中力は限界に達し、
コントローラーを握る手は汗で滑る。
「次で、マジで最後だぞ!」兄の声にも疲労がにじむ。
「望むところだ!」僕も声を枯らして応える。
そして、運命の最終戦。
僕たちは最後の力を振り絞ってコントローラーを操作した。
ゲームのキャラクターがぶつかり合い、技を繰り出すたびに、
リビングには僕たちのうめき声と叫び声が響き渡る。
結果は、僕の勝利。
「よっしゃあああああ!」
僕はガッツポーズをして叫んだ。
兄は悔しそうに顔を歪ませ、コントローラーを床に置いた。
「ちぇっ…仕方ねぇな。」
僕は意気揚々と立ち上がり、
冷蔵庫へと向かおうとしたその時だった。
「はい、お疲れ様。二人とも、よく頑張ったわね。」
リビングの入り口に、いつの間にか母さんが立っていた。
僕と兄はびっくりして顔を見合わせる。
母さんの手には、なんと二本のあずきバーが握られていた。
「え…?」
「ケンカばっかりして、本当に元気なんだから。でも、こんなに頑張ったんだもの。ご褒美よ。」
母さんはにこやかに微笑み、
僕と兄に一本ずつあずきバーを手渡してくれた。
キンキンに冷えたあずきバーの感触が、
火照った手に心地よい。
僕と兄は顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。
「…ありがとう、母さん。」兄が先に口を開いた。
「ありがとう!」僕も続いて言った。
僕たちは並んでリビングの床に座り、
無言であずきバーにかぶりついた。
硬いあずきバーが口の中でゆっくりと溶け、
ひんやりとした甘さが全身に染み渡る。
ゲームに勝ち、一人で食べるあずきバーも美味しいけれど、
兄ちゃんと並んで食べるあずきバーは、
なぜだか特別に美味しく感じられた。
あの夏の日、あずきバーを巡る僕たちの激しい戦いは、
母さんの優しさによって、ちょっぴり甘くて、
温かい思い出に変わったのだった。