popoのブログ

超短編(ショートショート)

ワンダーランド

アリスはスマートフォンから顔を上げて、

目の前の、いつもと変わらないカフェの喧騒に目を細めた。

イヤホンからは、お気に入りのインディーロックが流れている。

大学の課題に行き詰まり、気分転換にSNSでも見ようと

スマホに手を伸ばした瞬間、奇妙なことが起こった。

 

スマホの画面が突如として虹色の光を放ち、

アリスは思わず目を閉じる。

次に目を開けた時、彼女の目の前には

見慣れない光景が広がっていた。

カフェの椅子は巨大なキノコに、

テーブルは光るクリスタルに変わっている。

そして、天井からは奇妙な植物がぶら下がり、

壁にはカラフルな幾何学模様が浮かび上がっていた。

 

「あら、新しいお客さんかい?」

 

背後から声が聞こえ、振り返ると、

そこにはふわふわのピンク色の耳と尻尾を持つ、

サングラスをかけたウサギがいた。

そのウサギは、忙しなくスマホを操作しながら、

アリスにウィンクする。

 

「ここは『ワンダーランド・オンライン』。最新の没入型ARゲームだよ。君もログインしたんだね!」

 

ウサギはそう言って、アリスのスマホを指差した。

アリスが自分のスマホを見ると、そこには

見慣れないアプリのアイコンが表示されている。

「ワンダーランド・オンライン」。

 

「え、これ、ゲームなの?」

 

困惑するアリスに、ウサギはニヤリと笑った。

 

「そうさ。そして君は、このゲームの最新アップデートで追加された新キャラクター、いや、むしろ『イレギュラー』だね。さあ、冒険を始めようじゃないか!」

 

ウサギはそう言うと、巨大なキノコの間をすり抜けていく。

アリスは半信半疑ながらも、彼を追って歩き出した。

 

彼女が足を踏み入れたのは、AIが作り出した

無限の可能性を秘めたデジタル世界。

そこでは、チェシャ猫ならぬ「チャット猫」が

謎めいたコードを囁き、

マッドハッターならぬ「ハッカーハッター」が

仮想空間で奇妙なお茶会を開いている。

女王様は、SNSのフォロワー数を絶対的な力とみなす

インフルエンサー「クイーン・オブ・ハート」として君臨し、

気に入らない者を「リムーブ」するという。

 

アリスは、この予測不能なデジタル世界で、

現実世界では考えられないような出会いを経験し、

様々な困難に直面する。

 

時にはハッカーハッターと共にシステムのバグを修正したり、

時にはクイーン・オブ・ハートの炎上騒動を収めるために奔走したり。

彼女は、この奇妙な世界での冒険を通して、

自分自身の価値観や、現実世界の「常識」とは何かを問い直していく。

 

果たしてアリスは、このデジタル・ワンダーランドから

現実世界に戻ることができるのか?

そして、この不思議な体験が彼女に何をもたらすのだろうか?

 

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現実世界に戻ったアリスは、

慣れ親しんだカフェの喧騒の中で、自分の席に座っていた。

目の前には、飲みかけのアイスティーと、

開いたままのノートパソコン。

イヤホンからは、先ほどと同じインディーロックが流れている。

全てが元通りに見えたが、アリスの心の中は、大きく変化していた。

 

スマホの画面を見ると、

「ワンダーランド・オンライン」のアプリは消えていた。

まるで、全てが夢だったかのように。

しかし、アリスの指先には、

まだキーボードを叩くときの奇妙な感覚が残っていた。

そして、何よりも、彼女の視野が大きく広がったのを感じていた。

 

大学の課題、人間関係、将来への不安。

現実世界の「常識」に囚われていたアリスは、

デジタル・ワンダーランドでの経験を通して、

それらの束縛から解放されたような感覚を覚えていた。

目の前の課題が、以前よりもずっと小さなものに見える。

 

そして、自分の可能性は、

自分が思っていたよりもずっと広いことを知った。