popoのブログ

超短編(ショートショート)

始まりの合図

「バン!バン!」

懐かしい音。そしてこの時期がやってきた。

そう感じさせてくれる音。

涼しい風が吹き始めたこの季節。

学校の校庭から聞こえる音。

スピーカーから聞こえる声。

 

俺が通っていた頃は、組体操や騎馬戦なんてものがあった。

練習が始まると学校ではずっと運動会の話だった。

誰がリレーに出るか。

誰が上に立つか。

この時期になると新しい友達もできた。

普段は分かれるクラス内も、この時は一丸となるのだ。

運動が苦手な子がいてもみんなでサポートし

みんなが役割を持った。

誰かに指図されるわけでもない。

みんなで考え、みんなで協力した。

そんなことに一日中、夢中だった。

(ああ。懐かしいなあ)

好きな子にかっこいい姿を見せたくて、

失敗した。

親に何か買ってもらいたくて、

失敗した。

それでも、みんなと仲良くなり、

それでも、何かを買ってくれた。

たくさん笑って、たくさん汗を流した。

ケガした自分より、一生懸命な自分が勝った。

間違いなく俺はそこに参加していた。

その経験がみんなとの絆となった。

普段忘れかけている記憶も、

この音と声が呼び覚ます。

 

そして何かが始まる気がする。

俺は今、清々しい気持ちになる。

 

通学の日々

「行ってきます」

不愛想な声で、私の一日が始まる。

自転車に乗って駅までの道のり。

毎日同じ道。同じ景色。

「おはようございます。こちら回ってください。」

(あ。ここで工事が始まるのかあ)

軽く会釈をして迂回する。

そしてまた駅までの道のり。

(そういえばいつもの人いないなあ)

毎日この場所で会う人が今日はいないことに気付く。

「おはよう」

駅に着くと友達と合流する。

「おはよう。」

「ねえねえ。昨日のラインみた?」

グループラインで他の人同士が盛り上がっていたのを思い出す。

それからも友達との会話は続き、電車に乗る。

ちょっと混雑した電車の中。(うん。今日もあつい)

しばらくして学校のある駅に到着。

「おはよう。」

また別の友達と合流する。

「ねえねえ。昨日のラインみた?」

また同じ話が始まった。

3人で会話をしながら学校へ向かう。

 

これが私の毎日のはじまり。

ああ。この毎日も。この景色も。この感覚も。

“あと少しかぁ。”

私はあと数か月で卒業を迎える。

よし!残された学校生活。

楽しまなきゃ!

私は気合いを入れ直す!

 

「おはよう!」

元気いっぱいに教室の扉を開ける。

突然の雨

ザアアア。

外は夜中から大雨が降っていた。

私は、何かスピーカーのような声で目を覚ます。

私は起きてすぐTVをつけた。

「緊急速報です。午前9時43分。今から10分ほど前。

新潟県を流れる早川で氾濫がありました。」

私は慌ててNEWSに目をやった。

私が住んでいる地域にも同じ川は流れていた。

スマホで情報を検索する。

え?私の住む地域だった。

慌てて友人に連絡をする。

プルル・・・プルル・・・。

電話に出ない。

慌てておばあちゃんに連絡をする。

プルル・・・プルル・・・。

電話に出ない。

外からはまだスピーカーの声がしていた。

間違いない。この地域で氾濫があったんだ。

カーテンを開けて外を見る。

幸い家の近くには水が来ていない。

私は咄嗟に傘も持たずに家を飛び出した。

近くに住むおばあちゃんが心配だった。

(雨で前が見えない!)

それでも少しうつむきながら懸命に走る。

「ほら!早く非難しな!」

声が耳に入ったが、構うことなく走り続けた。

近くまで水が来ているようだった。

ガラガラッ!!

私は、めいっぱいの力で玄関を開けた。

「おばあちゃん!大丈夫!?」

声がしない。

「おばあちゃん!」

その時だった。

プルル・・・プルル・・・。

ポケットの入った、私のスマホが鳴った。

「よかったあ。やっとつながった。早く体育館おいで。」

おばあちゃんの声だった。

私は安堵と共に、今自分がびしょ濡れになってるのに気付いた。

「おばあちゃん。待ってて。着替えてすぐ行く!」

私はまた自宅へと走り出した。

私たちのお城

敷地30坪の土地に3階建ての家が建った。

人生で初のマイホーム。

そしておそらく生涯暮らすであろう

マイホーム。

俺は6畳二間の小さな家で育った。

思春期には自分の部屋が欲しくても

その想いは叶わなかった。

俺は成人して愛する人と巡り合った。

俺は結婚して愛するこどもができた。

そう。俺には守るべき家族が出来た。

いつか妻はこう言った。

「小さくてもいい。私たちのお城が欲しい」

その時から俺には目標ができた。

引っ越しを繰り返しながら

どこの街が俺たちにとって子育てにいい場所なのか。

どこの街が俺たちにとって生活しやすい環境なのか。

そしてたどり着いたこの街。この土地。

より目標が明確になった。

俺はこれまで必死で駆け抜けた。

もちろんまだまだ借金もある。

もちろんまだまだ頑張らないといけない。

それでも今日だけは家族でこの日を祝いたい。

それでも今日だけはこの家をずっと眺めていたい。

Tattoo

今日、俺は3つ目のタトゥーを彫る。

「やめなよ。」

俺の周りには批判的な人が多い。

「親からもらった大事な体」

「プールに行けなくなるよ」

「印象悪いじゃん」

正直に言う。

「ほっといてくれ。」

俺は誰かに何かを言われたくて入れるんじゃない。

親からの?プール?怖い?

そんなのわかってる。

それでも、俺の中で「入れたい」という想いが、

その気持ちを上回っただけの話だ。

もう一度言うが、誰かの為じゃない。

あえて言うなら、俺は単純なバカだ。そう思ってくれ。

今思う気持ち。忘れない為。

その文字を見て、その絵を見て、

俺は奮い立つ。俺は頑張ろうと思えるんだ。

入れるにはそれなりの決心だってある。

消すのだって安易じゃない。

それでも俺は今の気持ちを忘れないための

俺なりの前向きな表現なんだ。

「どんな意味なの」

「お前らしいな」

「かっこいいな」

どうせ何か言うなら、そう言ってくれ。

 

ちなみに今日俺は、虎のタトゥーを入れる。

先日交通事故で亡くなった俺の息子。

名前は大河だ。

俺はこいつとずっと一緒なんだ。