2024-04-01から1ヶ月間の記事一覧
あれはまだ、私が10歳の頃だった。 母親に連れられて初めて図書館を訪れた。 そこで何気なく手にした一冊の本。 表紙は色鮮やかな絵だった。 それが、私がその本を手に取った理由。 物語を読み進めると、それは優しい物語だった。 主人公の少女は一匹の猫…
湯船から上がり、 真っ赤なお顔をほころばせる赤ちゃん。 小さな体は、まるで摘みたての桃のように ぷるぷると震えている。 そっと抱き上げ、ふわふわのタオルに包み込むと、 赤ちゃんは安心したように目を細める。 タオルは毎日の洗濯で柔軟剤の優しい香り…
活気に満ちた若者と 流行の最先端をいく街。 IT企業も集まり、情報の発信源になっている。 東京の真ん中、渋谷。 私は久しぶりにこの街に来た。 かつては私も夢をみた。 悔しさと喜びをこの街で味わった。 上手くいかない人生を、 たくさんの人ごみの中で孤…
さあ、準備はいいか? ゴールデンウィーク、いよいよその幕開けだ。 日々の喧騒から離れ、自分自身と向き合う時間。 未知なる世界へ、旅に出よう。 心の奥底に眠っていた夢を掘り起こし、 新たな可能性を解き放とう。 大切な人たちと笑い合い、語り合い、 か…
彼は、ごく平凡なサラリーマンだった。 安月給で贅沢もできない。 そんなある日、彼は帰宅途中、 公園のベンチに腰掛けた。 「はあ。今日も疲れたな。」 と缶コーヒーを一本飲む。 ガサッ。 足元で音がした。 彼はベンチの下を覗き込んだ。 するとそこには、…
北海道の広大な牧場で、 一頭の黒鹿毛の競走馬が誕生した。 力強くしなやかな体つきと、燃えるような瞳 生まれながらに特別な存在感を放つその馬は、 「疾風」と名付けられた。 一方、東京で暮らす翔太は、 幼い頃から馬に夢中だった。 しかし、貧しい家庭で…
「ただの気まぐれだったから」 彼女との別れは突然訪れた。 あれは飲み会の帰りだった。 「ねえ?まだ一緒に飲もう?」 俺はその時から恋に落ちた。 「ねえ?今日お家行っていい?」 「ねえ?この映画観に行こ?」 「こら。寝すぎだぞ。」 「美味しいね。は…
小さな漁村。 美しい海と山に囲まれたこの村は、 昔から漁業で栄えてきた。 しかし近年、海の環境悪化により、 漁獲量も減少し、村の人々の生活も苦しくなっていた。 少年は、今日も海辺で遊んでいた。 海を見つめながら、おじいちゃんから聞いた話を思い出…
穏やかな陽射しが降り注ぐ、 とある商店街に隣接する公園。 木々の葉が風に揺れ、木漏れ日が地面に踊る。 公園の一角には、大きな木が枝を広げており、 その木に、動物のぬいぐるみがかけられていた。 そのぬいぐるみは、茶色いクマで、 首には赤いリボンが…
4月の終わり、町の外れにある一軒家。 夜風が激しく窓を叩きつけ、バンバンと音を立てる。 部屋の中は、古いオルゴールの音が 不気味に響き渡っていた。 そこに住むのは、1人暮らしの老女。 老女は、夫を亡くして以来、 ずっとこの家で孤独な生活を送ってい…
朝日が昇る前に、 きゅうり農家の田中さんはすでに起きていた。 田中さんは、畑に出て、きゅうりの様子をチェックする。 きゅうりは、朝晩の涼しい時間帯に成長するため、 田中さんは早起きして水やりや雑草取りを行う。 奥さんは、朝食の準備。 朝食は、ご…
雨上がりの静寂を破るように、 ほのかにお香の香りが漂ってきた。 思わず鼻をくすぐられ、 その香りに導かれるように古民家の中に入った。 土間の土の香りと、 木造の梁や柱が醸し出す温もりある空間。 窓からは緑豊かな庭が見え、 心が洗われるような景色が…
小さな商店を営む実家。 俺はおじいちゃんの作る五平餅の香ばしい匂いに包まれて育った。 店の奥にある囲炉裏端で、炭火でじっくり焼かれる餅に、 甘辛いタレが絡み、「ジュッ」と音を立てる。 学生のお客がやって来た。 「おじいちゃん!一本お願いします。…
42.195キロ。 長い、長い道のり。 初めてのフルマラソンに挑む私は、 スタートラインに立ち尽くしていた。 周りのランナーたちは皆、 自信に満ち溢れているように見える。 私は、不安でいっぱいだった。 ランニングを始めたのは、1年前のことだった。 運動不…
「永久欠番」 優れた功績を残した競技者の栄誉として、 その人の使った背番号を、 永久に他の人が使わないようにすること。 とても名誉なことである。 ある時、 スポーツの世界に新しい仲間が加わった。 しかし彼だけが肌の色が違った。 周囲は暴力的なプレ…
「幼い頃、おばあちゃんの家に行くと 必ず行く場所がありました。 それは近所の喫茶店。 そして私はいつもホットケーキを食べました。」 おばあちゃんと通った喫茶店。 きっと特別な場所だったのでしょう。 幼い頃の思い出は、 案外、大人になっても鮮明に覚…
小さな村のはずれに、 星を見るのが大好きな少年がいた。 彼の名前はリク。 夜空を見上げ、無数の星々が織りなす壮大な景色に 心を奪われていた。 「いつか自分もあの星々に触れたい」 「宇宙飛行士になりたい」と夢見ていた。 しかし、周囲の人々はリクの夢…
小さな頃から控えめな性格だった僕にとって、 運動会は苦手イベントだった。 人前で注目されるのが嫌いで、 徒競走はいつもビリかビリから2番目。 今年もきっと同じだろうと、 憂鬱な気持ちだった。 周りの子供たちは、 本番を前に元気いっぱいに走り回って…
私は、長年勤めた会社を辞めて、ひとり旅に出た。 行き先は決めていない。 ただ、心の赴くままに、 日本各地を巡りたいと思っていた。 旅の楽しみの一つは、駅弁だ。 各地の駅弁は、その土地の食材や文化を反映しており、 旅の思い出を彩る大切な存在だ。 私…
美術館の一角に飾られた、平凡な風景画。 しかし、その絵には秘密が隠されていた。 表向きは穏やかな湖畔の風景を描いた油彩画。 しかし、特殊な光を当てると、 湖面に別の絵が浮かび上がる。 「作者の意図は何だったのか?」 「作者はなぜ、このような秘密…
春の日差しが降り注ぐ中、 僕は中学校の校門をくぐった。 まだ着慣れない制服に身を包み、 少し緊張しながら歩く。 不安な僕は周りをキョロキョロ見る。 小学校の卒業式から数ヶ月が経ち、 なんとなく過ごしていた日々も今日で終わりを迎える。 これから始ま…
あの日、ぼくは初めて野球の試合を観に行った。 テレビで見るよりも迫力満点のプレーに、 すっかり魅了されてしまった。 中でも、一番印象に残っているのが、 松本選手のホームランだ。 松本選手は、かつてはチームの主力打者として 活躍していた選手だった…
鏡に映る私は、まるで重荷を背負っているようだった。 背中まで伸びた髪は、ツヤを失い、絡まり、 まるで生き物のように蠢いている。 そして、その重さに、私の心も沈み込んでいく。 「もう、うんざりだ。」 私は家を出て、美容院に足を踏み入れる。 店内に…
沖縄県にある小さな町に住むひとりの少女は、 幼い頃からシーサーが大好きだった。 彼女の家の屋根には、 口を開けたオスと口を閉じたメスの シーサーが並んでいた。 「くれーやーまむてぃくぃとーるぬやさ」 「ん?家を守ってくれてるの?」 「だからよ」 …
朝焼けの光がカーテンの隙間からこぼれ、 まだ眠っていた彼女の顔に優しく降り注いだ。 今日という日が訪れたことを告げる光は、 同時に彼女の心に小さな波紋を起こした。 「今日…ついに…」 そう、今日が彼女にとって初めての出勤日だった。 大学卒業後、就…
私には幼い頃から時間を共にした親友がいた。 そんな私は、好きな子ができた。 「実は、プロのスカウトから声がかかって、 もうすぐ東京でモデルデビューするんだ。」 高校時代の夏、私はちょっとした強がりと、 好きな子にいい格好をしたいからと、 友人た…