小さな商店を営む実家。
俺はおじいちゃんの作る五平餅の香ばしい匂いに包まれて育った。
店の奥にある囲炉裏端で、炭火でじっくり焼かれる餅に、
甘辛いタレが絡み、「ジュッ」と音を立てる。
学生のお客がやって来た。
「おじいちゃん!一本お願いします。」
「おっ。大きくなったなぁ。いくつになった?」
「中2です!」
「ほお。もう中学生かぁ。あんな小っちゃかったのになぁ。」
ハハハ。と言葉を交わす。
俺は成長するにつれ、おじいちゃんの作る五平餅は、
地元の人々にとってなくてはならない存在なんだ。
と気付かされる。
素朴な味わいと、温かい笑顔で接するおじいちゃんは、
多くの人から愛されていた。
しかし、ある日、おじいちゃんが体調を崩した。
「おじいちゃん。もう店には立てないみたい。」
「おじいちゃん!嘘だよね?大丈夫だよね?」
「ははは。おじいちゃんは大丈夫だ。」
「ダメよ!お医者さんに無理するなって言われたでしょう。」
俺は家族に必死に説得を試みるが・・・
「ダメよ。おじいちゃんはもう長時間立っていられないんだから。」
「休ませてあげて。」
店は閉店することに決まった。
店を閉める日、
俺はおじいちゃんに最後のお願いをした。
「五平餅の作り方を教えて。」
おじいちゃんは優しい笑顔で、
「よし!やるか。」と、
ひとつひとつ丁寧に教えてくれた。
そんな、おじいちゃんの姿に、俺は決意する。
「おじいちゃん。俺、おじいちゃんの五平餅を作りたい。」
「この店を守っていきたいんだ。」
それから俺は、店を継ぎ、五平餅を作り始めた。
しかし、思うようにいかず、何度も失敗を繰り返した。
それでも俺は諦めない。
必死に、おじいちゃんの教えを思い出す。
「一本ください。」
「はい。どうぞ。ありがとうございました。」
「ここの味は変わらないですね。」
「大好きなんです。頑張ってください。」
俺にとっての最高の言葉だった。
おじいちゃんの温かい愛情と、情熱を込めた五平餅を
俺は今日も焼き続ける。