popoのブログ

超短編(ショートショート)

お香の香りに誘われて

雨上がりの静寂を破るように、

ほのかにお香の香りが漂ってきた。

思わず鼻をくすぐられ、

その香りに導かれるように古民家の中に入った。

 

土間の土の香りと、

木造の梁や柱が醸し出す温もりある空間。

窓からは緑豊かな庭が見え、

心が洗われるような景色が広がっている。

 

「いらっしゃいませ。さあどうぞ。」

奥の座敷に腰掛けると、湯気の立ち込める急須と、

色鮮やかな和菓子が用意された。

 

「ようこそいらっしゃいました。

お香の香りが届いたようですね。」

 

老人の言葉に、思わず顔を赤らめる。

恥ずかしさを隠すように、お香について尋ねてみる。

 

「お香は、古くから人々の心を癒すために使われてきたものです。

様々な香りには、それぞれ異なる効果があります。」

 

ラベンダーは心を落ち着かせ、

ローズマリーは集中力を高め、

柑橘系の香りは気分をリフレッシュさせる

効果があるという。

 

話を聞きながら、老人が勧めてくれたお香を焚いてみる。

すると、たちまち部屋中に心地よい香りが広がり、

心がスーッと軽くなるような感覚に包まれた。

 

老人は、お香の焚き方や選び方についても

丁寧に教えてくれた。

その知識の深さに、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

 

気が付くと、お香の香りと、老人の柔らかい表情に包まれて、

いつの間にか忘れていた安らぎを取り戻していた。

そしてきっと、この老人は

四季折々の自然と共存しながら、

心豊かに暮らしてきたのだろう。

 

日暮れとともに、私は帰ることにした。

老人は私に丁寧に挨拶し、見送ってくれた。

 

古民家を出て、私は振り返って見た。

夕暮れの光に照らされた古民家は、

さらに美しく輝いていた。

 

私はお香の香りに誘われて、本当に良かった。

そう思った。