雨上がりの静寂を破るように、
ほのかにお香の香りが漂ってきた。
思わず鼻をくすぐられ、
その香りに導かれるように古民家の中に入った。
土間の土の香りと、
木造の梁や柱が醸し出す温もりある空間。
窓からは緑豊かな庭が見え、
心が洗われるような景色が広がっている。
「いらっしゃいませ。さあどうぞ。」
奥の座敷に腰掛けると、湯気の立ち込める急須と、
色鮮やかな和菓子が用意された。
「ようこそいらっしゃいました。
お香の香りが届いたようですね。」
老人の言葉に、思わず顔を赤らめる。
恥ずかしさを隠すように、お香について尋ねてみる。
「お香は、古くから人々の心を癒すために使われてきたものです。
様々な香りには、それぞれ異なる効果があります。」
ラベンダーは心を落ち着かせ、
ローズマリーは集中力を高め、
柑橘系の香りは気分をリフレッシュさせる
効果があるという。
話を聞きながら、老人が勧めてくれたお香を焚いてみる。
すると、たちまち部屋中に心地よい香りが広がり、
心がスーッと軽くなるような感覚に包まれた。
老人は、お香の焚き方や選び方についても
丁寧に教えてくれた。
その知識の深さに、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
気が付くと、お香の香りと、老人の柔らかい表情に包まれて、
いつの間にか忘れていた安らぎを取り戻していた。
そしてきっと、この老人は
四季折々の自然と共存しながら、
心豊かに暮らしてきたのだろう。
日暮れとともに、私は帰ることにした。
老人は私に丁寧に挨拶し、見送ってくれた。
古民家を出て、私は振り返って見た。
夕暮れの光に照らされた古民家は、
さらに美しく輝いていた。
私はお香の香りに誘われて、本当に良かった。
そう思った。