popoのブログ

超短編(ショートショート)

おでん

小さな頃の私は、寒い冬の日に

母と一緒に街角の屋台で売られている

「おでん」の香りに誘われていた。

その温かくて優しい香りが、

まるで幸せな魔法のように心を包んでくれた。

 

家計が厳しい時期も、

母はいつも心を込めて

「おでん」を作ってくれた。

いつもひとつだけ入っていた、たまご。

私の楽しみだった。

安い材料だけど、美味しくて温かい食べ物。

その中には、間違いなく家族への愛と

思いやりが詰まっていたように感じた。

貧しくても心は豊かな家庭だった。

 

大人になった今でも

忙しい毎日、ストレスや悩みに

押しつぶされそうな時、

冷たい風に吹かれ夜道を歩くと

ふとした瞬間に思い出す。

母が笑顔で「おでん」を作ってくれたこと。

心温まる食卓があったこと。

 

ある冬の日、私は街角で

古びた「おでん」の屋台を見つけた。

思わず立ち止まり、その香りをかぐと、

遠い記憶を再び思い出す。

「おでん」の思い出。母の笑顔。

 

私は、その屋台で「おでん」を買う。

あたたかいスープが口の中で広がり、

具材の優しい味わいが心をなごませてくれる。

(久しぶりに母のおでんが食べたいなあ。)

 

大人になると、何かを忘れがちになる。

でも私は、そんな時こそ、

「おでん」の温かいスープと共に、

小さな頃の幸せな瞬間や

家族の愛を思い出すことができる。