popoのブログ

超短編(ショートショート)

2024-01-01から1年間の記事一覧

ふたりを紡ぐ花

今日も街はパステルカラーに彩られていた。 しかし、彼の心は、その色鮮やかさとは裏腹に曇っていた。 数日前、大好きな彼女と大きな喧嘩をしてしまい、 そのまま気まずい状態が続いている。 「きちんと謝りたいな…」 彼は、何度も彼女に電話をかけようと思…

凍りついた現金

12月10日の朝、東京・府中の街は、冬の息吹を肌で感じていた。 いつものように現金輸送車が府中工場に向かう。 その車内に積まれたのは、従業員たちの給料、3億円。 だが、その現金は、まもなく歴史に残る出来事の舞台となる。 白バイ警官を装った男が現れ、…

光をつかむ

生まれつき右腕の動かない僕は、 青い空を見上げるのが好きだった。 僕は、自分のことを「普通じゃない」とどこか思っていた。 友達と手をつなぐことも、ボールを投げることも、できない。 いつもどこか置いていかれているような、 そんな感覚にさいなまれて…

平凡な日々に 世界は静かに目を覚ます

ある平凡な日の朝、世界は静かに息を潜めていた。 小鳥のさえずりがいつもより騒がしく感じられた。 少年は窓を開け、深呼吸をした。 爽やかな朝の空気の中に、どこか不穏な香りが混ざっているような気がした。 いつものように朝食を食べ、学校へと向かう。 …

ロマンスの神様

結婚して数年が経ち、日常に追われる日々を送るようになったふたり。 互いの愛情は変わっていないはずなのに、どこか心に距離を感じていた。 そんなある日、2人は偶然、初めてデートをした場所を訪れる。 そこで、過去の自分たちと重ね合わせ、今の自分たち…

靴下の中

地方都市に住むシングルマザーのメメは、 二人の娘を育てるため、夜な夜なスナックで働いていた。 経済的に苦しい状況の中、 メメは娘たちの将来を案じ、心を痛めていた。 「娘たちには苦労をかけさせたくない…」 そんなメメの姿を見ていたのは、近所に住む…

思い出がいっぱい

陽だまりの部屋で、おばあちゃんは アルバムを膝の上に広げていた。 指先で丁寧にページをめくりながら、昔の写真を眺めている。 そこには、幼い頃の家族の写真、学校での遠足の写真、 恋人との日の写真、そして今を写した写真が収められていた。 おばあちゃ…

少女の祈り

深い闇に閉ざされた牢獄。 鉄の扉の向こうには、生きた証であるかのように、 一輪の白い花が静かに息づいていた。 その花は、若く美しい少女、 アリアの手によって育てられたものだった。 アリアは、この国の支配者によって禁じられた宗教を信仰していた。 …

カレンダー

1月のページをめくると、そこには見慣れた街並みが雪化粧をしている。彼は、この写真を見ながら、君と初めて手を繋いだ日のことを思い出した。真っ白な世界の中で、君の赤いマフラーがひときわ輝いて見えた。 2月。バレンタインデーのページには、手作りチョ…

ふとした日

いつものように、起き上がり部屋のドアを開ける。 今日は特に予定もない、穏やかな一日のはじまりだ。 リビングに入ると、愛らしい笑顔で迎えてくれる妻の姿があった。 ふとした瞬間に、彼女の頬にできた浅いシワが目に入った。 日々、家事や育児に奔走する…

絵本作家と雨の音

雨音が窓を叩きつける。 部屋の中は、絵の具の匂いと、紙をめくる音だけが響いていた。 私は、窓の外をぼんやりと眺めていた。 雨粒が、アスファルトの上で小さな円を描いて消えていく。 その様子を、まるで物語の一コマのように感じてしまう。 最近、なかな…

いい肉の日と家族

待ちに待った11月29日。いい肉の日。 今日はお友達と遊ばずにお家でお父さんの帰りを待つ。 カレンダーに大きく丸をつけた11月29日。 一年の中でも、今日という日だけは、 お父さんが高級なお肉を買ってきて、家族みんなで 焼肉パーティーをする日だ。 いつ…

ネットショッピングの魔法

「ポチッ」とボタンを押した瞬間から、 私の心臓は高鳴っていた。 それはまるで、プレゼントを開ける前の子供のような高揚感。 画面に表示された「ご注文ありがとうございます」の文字が、 私の期待感をさらに大きく膨らませる。 今回購入した商品は、ずっと…

湯上りの牛乳瓶

仄暗い脱衣場の明かりの下、 若者はタオルで髪を拭いながら鏡に映る自分を見た。 少し紅潮した顔には、どこか満足げな笑みが浮かんでいる。 熱い湯船から出たばかりの体には、まだ湯気が立ち上る。 彼は洗面台に向かい、冷水を顔に浴びた。 ひんやりとした感…

古都のライブハウスから

古都の片隅にひっそりと佇むライブハウス「月影」。 そのステージで長年、ギター一本で歌い続けてきた男がいた。 彼の名は裕也。 どこか憂いを帯びた歌声と、心に染み入るようなオリジナル曲が、 静かに夜の帳を彩っていた。 歌声は、決して派手ではない。 …

エデン

舞台は、高度なAIが支配する近未来。 人類は、仮想現実世界「エデン」の中で、理想的な生活を送っていた。 エデンは、AIによって管理された完璧な世界。 そこでは、誰もが健康で、欲しいものは何でも手に入り、争いもなかった。 主人公のアダムとイブは、エ…

チキン店と出会い

「うわっ、すごい匂い!」 僕は、ショッピングモールの中庭に広がる香りに足を止めた。 甘辛い醤油のような香りに、食欲をそそられるスパイシーな香りが混ざり合って、僕の鼻をくすぐる。 視線を追うと、そこには見慣れない赤い看板が立っていた。 「K-CHICK…

ホテルの開業

<開業前夜> 「ついに明日か…」 窓の外には、街の灯りがぼんやりと輝いている。 明日、この町に初めて誕生するホテルの開業を控え、 私はソワソワと落ち着かない気持ちでベッドに横たわっていた。 このホテルは、私にとってただ仕事場というだけでなく、 夢…

トイレ掃除の時間

「いやー、またトイレ掃除か…」 月曜日の朝、掃除当番の俺はため息をついた。 いつもながらの、憂鬱な掃除の時間。 ところが、今日はいつもと様子が違う。 クラスメイトの皆が、掃除用具を持って、 楽しそうにトイレに向かっていた。 「何だ、今日はみんなノ…

働くお父さん

夕焼け空の下、今日も一日お疲れ様。 夕焼けが西の空を茜色に染める頃、 小さな女の子、あかりちゃんは窓の外を見つめていた。 今日はお父さんがいつもより遅く帰ってくる日だ。 あかりちゃんは、大好きなぬいぐるみを抱きしめながら、 今日の出来事を一つ一…

ボールを追いかけて

小さな頃から、ボールを追いかけるのが大好きだった少年、ハル。 彼が初めてサッカーボールを握ったのは、 まだ小さな手でボールが隠れてしまうほどだった。 ある日、ワールドカップの試合をテレビで見ていたハル。 世界のトッププレイヤーたちが繰り広げる…

パチンコ青年

薄暗い店内に、パチパチと玉が弾ける音だけが響く。 そこには、一攫千金を夢見る若者、哲也がいた。 哲也は、日中はコンビニで働き、 夜はパチンコ店で時間を潰す毎日を送っていた。 哲也の心は、常に二つの感情に揺れ動いていた。 一つは、大当たりを引いた…

地上の鳥

ある森の中に、他の鳥たちとは少し違う、 大きな翼を持ちながらも空を飛べない鳥がいました。 その鳥の名前は、ココロ。 他の鳥たちが空高く舞い上がり、木々の間を軽やかに飛び回る中、 ココロは地面をちょこちょこ歩き、羨ましそうに空を見上げていました…

羽ばたく

変わらぬ朝が来た。 いつものように、コーヒーの香りが部屋に広がる。 窓の外には、若葉が眩い新緑が輝いている。 でも今日は何かが違う。 いつも通りの朝が、どこか特別に感じられる。 カレンダーに大きく赤字で書かれた日付。 娘の出発の日だ。 玄関先で、…

恋人岬の鐘

波の音、そして潮風。 恋人岬の展望台に立つ二人は、紺碧の海を背景に、静かに時を刻んでいた。 「さあ、鳴らしましょう」 優希がそう言うと、彩は少し緊張した面持ちで愛の鐘に手を伸ばす。 この鐘には、恋人が名前を呼びながら3回鳴らすと、 二人の愛が永…

老婦人と店主

今日も、いつものように店を開けた。 窓の外には、若者たちの賑やかな声が響き渡る。 街は活気に満ちている。 「いらっしゃいませ!」 いつものように、笑顔で客を迎える。 今日もたくさんの笑顔が見られるだろう。そう思っていた。 しかし、今日はいつもと…

一杯のココア

冬の訪れを告げるように、街は少しずつ色を変え始めていた。 澄み切った空気は、木々の葉を一枚、また一枚と地上へと誘い、 裸木になった街路樹が冬の到来を静かに告げていた。 そんな日の午後、私はいつものように小さなカフェに足を運んだ。 窓の外には、…

松葉ガニの葛藤

深海の漆黒に、紅い影がゆらめいていた。 それは松葉ガニ、深海の貴公子と呼ばれる存在だった。 彼の甲羅は、深紅のルビーのように輝き、 鋭い眼光は、深海の闇を切り裂くようだった。 彼は孤独な王だった。 他のカニたちは、彼の異様な姿に恐れ慄き、近づこ…

喜びと決意

満面の笑みを浮かべ、私は何度も雑誌のページをめくった。 そこには、我が子が産まれたときのような感動と、 長年の夢が叶ったような高揚感が入り混じっていた。 数年前、一念発起して立ち上げた小さなアパレルブランド。 デザイン画を何度も描き直し、試行…

40祭の夜

街は、煌めくネオンサインが夜空を彩り、 大人たちの熱気を帯びていた。 そんな中、静かに佇むレストランに、二組の男女の姿があった。 一組は、どこか緊張した面持ちの翼と美樹。 もう一組は、温かい笑顔を絶やさない智也と由美。 彼らは、高校時代からの同…