popoのブログ

超短編(ショートショート)

2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

新しい人生

それは桜並木が美しく咲き誇る春の日だった。 長年連れ添った夫婦。俺は妻である美咲と 桜の花びら舞う公園のベンチに並んで座った。 俺たちは静かに微笑みながら、 互いの手を優しく握りしめていた。 俺は、意識したように少し温かい声で 美咲に語りかけた…

「バカヤロー!」

東京の下町、活気溢れる商店街の一角に、 小さな和菓子屋「花月」があった。 職人気質の老店主・花岡月太郎は、 厳格な指導で弟子たちを鍛えていた。 その中でも、一番の弟子である吉岡優太は、 月太郎の厳しい言葉に何度も挫けそうになりながらも、 和菓子…

見つかったもの!

私はクラスメイトとの付き合いが苦手だった。 話しかけられても、なぜか言葉が出てこない。 次第に、誰も私に声を掛けなくなった。 すると今度、私は学校に行くのが怖くなった。 そんな私はひとつのゲームにハマっていた。 歩いているとスマホに現れる動物た…

朝のリビング

「いただきまーす!」 子どもたちの元気な声が 朝の我が家のリビングに響く。 キャハハハ 「お兄ちゃん、顔にごはんがくっついてる!」 「ほら…もっとゆっくり食べなさい。」 「ああ!おれ今週掃除当番だ。」 「ぼくは先週終わったからね〜。」 この子たちは…

一杯のビール

金曜日、満員電車を降りた瞬間に、 重たい荷物が肩にのしかかるように感じた。 一週間の疲れが一気に押し寄せてくる。 家にたどり着き、ようやく 解放されたような気持ちになる。 冷蔵庫から取り出したのは、 キンキンに冷えたビール。 「ああ~つかれたぁ」…

残された記録

ある二人の男性がこの町にいた。 ひとりは、この町で愛されるパン屋の店主A氏。 元気で明るい性格。近所の人からも慕われている。 もうひとりは、小さな工場で働くB氏。 普段から静かで、口数も少なく、おとなしい。 ある日、A氏とB氏は偶然同じ場所で強盗事…

行ってきます!

僕は今日大切な時を迎える。 「ボード行こう」 「カラオケ行こう」 「飲み会行こう」 どれも行きたかった その気持ちを抑えて 僕は勉強に時間を費やした。 どれだけやっても不安だった。 ここが出題されなかったら、意味がない。 そんな不安にもかられた。 …

人付き合い

「最近、仕事で大きなプロジェクトを任されたんだ。 大変だけど、やりがいがあるのよね。」 「すごいね!さすがだね。 頭がいいから、きっとうまくいくよ。」 「まだまだだよ。 でも、こうやって難しい仕事に挑戦できるのは嬉しいよね。」 「うらやましいな…

幕開き

爛漫の京都、歌舞伎座。 華やかな舞台に、今まさに歴史が刻まれようとしていた。 舞台中央に立つのは、当代随一の名優、二代目成田玄十郎。 その両脇には、長男の勇玄、次男の十蔵、三男の凛太郎が控えている。 三人の顔には、緊張と決意が入り混じっていた…

同じ人間

これはまだ赤い瞳の種族がいた頃の話。 「また喧嘩か。」 「どうせあいつらだろ。」 「ああ。また赤い奴らだってさ。」 赤い瞳の種族は少し気性が荒かった。 というよりは、感情の抑制が苦手だった。 すぐにカッとなる。怒ってしまう。 そう思われがちだが …

恋愛初心者

私は傷つくのが怖くて恋愛をやめた。 数年前、恋愛とは無縁だった私は 一人の男性と知り合った。 それは私が居酒屋でアルバイトをしていた時のこと。 「いつもおつかれさま。」 常連だった彼はお会計の際に 私にいつもこう言ってくれた。 「いつもおつかれさ…

記憶喪失

東京湾に浮かぶ豪華客船「クイーン」 その船上で、一人の男が目を覚ました。 彼は記憶喪失だった。 名前も、職業も、何も思い出せない。 唯一の手がかりは、ポケットに入っていた 「小田」という名刺と、 ホテルのスイートルームの鍵だった。 男は名刺の住所…

訪問者

ゲームクリエイターの田中は、 新作ホラーゲームの開発に追われていた。 締め切りが迫り、連日徹夜で作業を続けていた。 ある日、彼は奇妙な音で目を覚ました。 「コンコン、コンコン」 それは、彼の部屋のドアをノックする音だった。 深夜2時。誰も訪れるは…

究極のクッキー

薄暗い厨房で、パティシエの私は、 新しいチョコレートクッキーの開発に没頭していた。 目指したのは、外はサクサク、内はふんわり、 そしてチョコレートがとろけるような食感の 究極のクッキー。 試行錯誤を重ねる。 そしてついに理想のレシピに辿り着いた…

一通の手紙

深夜のラジオ番組を担当していた私は、 いつも通り番組を進めていた。 深夜1時過ぎ 一通の手紙を読み上げた。 それは数十年前の戦争体験を語る 一人の女性からの手紙だった。 戦争で家族を失い、絶望の淵に立たされた女性。 しかし、ある日どこからともなく …

なってやる!

You don’t have to imitate anyone. You have your own style. 誰かの真似をしなくてもいいんだ。君には君のスタイルがある! 海のないこの都市で 俺は世界一のサーファーを目指す。 動機は…モテたいから。 テレビに映し出されたサーファーたち。 長髪。こげ…

上には上がある

広い屋敷でペットとして飼われているネコ。 そう。ぼくの天敵。 ぼくは屋敷に住み着いているネズミ。 あいつはぼくを、食べようとせず、 遊び道具にしている。 「くそ!また見つかった。」 慌ててぼくは巣穴に戻ろうとする。 ドカっ!(イテテテッ) あいつ…

来んさいや。

日本海の荒波と豊かな自然に恵まれた町。 そんなこの町で冬の風物詩として 愛されているのが、輪島フグ。 11月から3月までの魚。 きめ細かい身と上品な甘み。 そしてとろけるような食感。 「これぞほんまもんのふくや。」 「冬の寒さに耐えて育ったふくや。…

俺の仕事

俺は小さな会社で働いている。 「ありがとうございました!」 精一杯のお礼を言う。 俺は毎日小さなことを頑張っている。 朝の掃除。 会社前の歩道。少し範囲を広げる。 落ち葉一枚を手でつかむ。 HPの修正。 僅かな違いだが見やすいように心がける。 配列。…

柳の木

”きぬぎぬのうしろ髪ひく柳かな” 通称「見返り柳」 遊郭から帰る客が、名残惜しげに振り返る様子から この名がついたと伝わっている。 町の広さは2万坪。 周囲に水を巡らせ侵入者を防ぐ。 入口は大門のみ。 ここを通れば身分も地位も関係無し。 遊郭の中では…

私と娘。

シングルマザー。 不倫から始まった新しい生活。 私は娘を身籠った。 生まれたときの娘の表情が愛おしくて 私はこの子のために。と 第二の人生を歩んでいる。 「ほら。食事中にスマホ触らないの。」 「うるさい!」 高校生になった娘は反抗期なのか 私との会…

あのトンネル

俺たちは男2人と女3人で あのトンネルに向かった。 俺は運転手。助手席には親友。 後ろのシートに女3人。 「さあ。入るぞ」「こっわ!」「こわいー」 でもこのドキドキ感がたまらない。 でもこのワクワク感がたまらない。 トンネルに入ってしばらく 「お、お…

手紙を書こう。

私の名前はさくら。 私の楽しみは老人ホームを訪れること。 おじいちゃんやおばあちゃん。 いつも明るく笑顔をくれる。 でもどこか寂しそうで孤独感を感じる。 私はひとりのおばあちゃんと、とても仲良くなった。 おばあちゃんは、いつも家族の話をしてくれ…

双子の姉妹

私たちが大切にしているのは 「私は私だっていうこと。」 私たちはお互いがそれぞれ自分自身と向き合い、 区別をつけるために努力している。 みんなから比較されたり、同じように扱われたり。 これが時にプレッシャーとなり、 これが時に苦労になる。 共通の…

愛子

「何で参観日なのに顔出さなかったの?」 「悪い。仕事が忙しくて。」 「あの子も寂しそうだったわよ。」 そう言って妻は 俺の隣にビデオカメラを置いていった。 俺は再生ボタンを押した。 「さあ。愛子ちゃん。歌ってみましょう。」 と、ピアノを弾く先生。…