popoのブログ

超短編(ショートショート)

柳の木

”きぬぎぬのうしろ髪ひく柳かな”

 

通称「見返り柳

遊郭から帰る客が、名残惜しげに振り返る様子から

この名がついたと伝わっている。

 

町の広さは2万坪。

周囲に水を巡らせ侵入者を防ぐ。

入口は大門のみ。

ここを通れば身分も地位も関係無し。

遊郭の中では籠の使用は禁止。

武士も刀を預けて入る。

そしてこの町、中でも威風堂々、君臨する花魁。

 

「いつかあんな女と遊びたい」

その想いが、この町に足を運ばせる。

 

初会

茶屋で紹介してもらい、財布を預ける。

ここは夢の場所、お金という現実的なものを忘れさせる。

引付部屋で花魁を待つ。

太鼓持ちや芸者を呼び、花魁をもてなす準備。

やがて、お付きの者を従えて登場する。

「あんたは私にふさわしいのかい」

花魁には客を選ぶ権利がある。

 

裏を返す

数日を経て再び花魁を訪ねる。

再び花魁をもてなす準備。

「今日はお酌くらいしてくれるだろうか」

それでも未だ名前も呼んでもらえない。

 

馴染み

そしてまた数日後。

初めて花魁の部屋に通される。

「会いたかったわ。」

態度は一変、恋人として迎えてくれる。

用意された名前の入った箸袋。

この時の喜びといったら堪らないものだ。

 

「さみしいわ。また待ってます。」

「ああ。すぐに会いに来るよ。」

 

雨夜の晩

そう言い残し、遊郭をあとにする。

名残惜しげに柳の木を振り返りながら。