popoのブログ

超短編(ショートショート)

雑談

母と娘のチョコレート工場

春の陽光が差し込むキッチンで、甘い香りが漂っていた。 台の上には、溶けたチョコレートが鏡のように輝き、 その周りにカラフルなトッピングが並べられている。 「今日はいつもと違うチョコレートを作ってみよう!」 そう提案したのは、小学生の娘だった。 …

リクエスト

街の雑踏の中、ふと耳にしたラジオの音。 いつものように通り過ぎてしまうところだった。 しかし、そのメロディが、私の足をとめた。 それは、高校時代にクラスで流行った曲。 卒業式の日にみんなで合唱した、あの曲だ。 懐かしいメロディが、当時の記憶を鮮…

津軽農家の朝

おばあちゃん:「おい、おめな、もうだんだん明るくなってきたべ。 そろそろ起きて、火をおこしてけろ。」 おじいちゃん:「まだ、ちょっと早いべ。もうちょっとだけ寝かせてくれ。」 おばあちゃん:「ほれ、昨日作った白菜漬け、朝飯に食うべか?」 おじいちゃ…

図鑑

澄み切った青空の下、咲(さき)は 庭いっぱいに広がる花畑に足を踏み入れた。 春の息吹を感じさせる、色とりどりの 花々が太陽の光を浴びて輝いている。 咲は、いつも通りのように、 それぞれの花に顔を近づけ、その甘い香りを深呼吸する。 咲は、花が大好…

ランプの灯

薄明かりが部屋に差し込み、 朝の静けさがカーテン越しに感じられた。 布団から出るのが億劫で、 くるまっている毛布に顔をうずめる。 今日も一日が始まるのか、と重たい気持ちが胸にこみ上げる。 何度も時計の針が動いただろうか。 ようやく布団から這い出…

パパは魔法使い

ある日、小さな男の子、ひなたはパパに尋ねた。 「パパ、なんでママはいつも笑ってるの?」 パパは優しく微笑み、 「それはね、ひなたが明るくて優しい子だからだよ。 ママはひなたと毎日一緒にいられて幸せなんだ」と答えた。 ひなたは首をかしげた。 「で…

キャディーの朝

朝日が昇る中、ゴルフ場のクラブハウスには、 若者たちの気だるい声が響いていた。 その中に、ひと際明るい笑顔の女の子、栞がいた。 彼女は、このゴルフ場でキャディーとして働いていた。 栞は、まだゴルフのルールもよくわからないまま、この仕事を始めた…

ハマりすぎた青年

「よし、あと一回だけだ!」 キーボードを叩く指が小刻みに震える。 画面に表示されたのは、最新装備が当たる… かもしれないガチャ画面だ。 彼は、人気オンラインゲーム 『アダモ・オブ・ファンタジー』にどっぷりハマっていた。 最初は、無料で遊べる範囲で…

上司とのランチ

今日は少し緊張気味だ。 なぜなら、いつもお世話になっている部長をランチに誘ったからだ。 普段からよく相談に乗ってもらっていて、仕事のことだけでなく、 プライベートな話もできる大切な存在。 感謝の気持ちを込めて、日頃の感謝を伝えたいと思っていた…

父と子のメロディー

舞台は、古き良き時代の風情を残す小さなジャズクラブ。 薄暗い照明が、磨かれたピアノや重厚なドラムセットに温かい光を投げかける。 客席は、ジャズ愛好家や近所の常連客で埋め尽くされ、期待に満ちたムードが漂っていた。 ステージ中央には、グランドピア…

秋の森から

「ふぅ、ハチミツは見つからないかなぁ…」 くまさんは木の上から、森を見下ろしていました。 秋の陽射しが、森を黄金色に染めています。 木々の葉は赤や黄色に色づき、 まるで絵画のようでした。 「あれ? みんな、何をしているんだろう?」 くまさんは、森…

引っ越しの日

午前中の光が、まだ眠そうな街を照らし始める。 カーテンの隙間から差し込む光に目を覚まされた私は、 深呼吸をして今日が来たことを実感した。 長年住み慣れたこの部屋とも、今日でお別れだ。 窓の外には、新しい生活が始まる場所への期待と、 この部屋との…

メッセージ

それは、街の一角にひっそりと佇む、 こじんまりとしたカフェだった。 大きな窓からは柔らかな陽光が差し込み、 店内はどこか懐かしい木の温もりと、 ほんのり漂うコーヒーの香りが心地よい。 私は、新しいカフェを開拓しようと、この店を訪れた。 ショーケ…

小さな生命

ぽかぽか温かい場所で、私は眠っています。 まだ何も見えませんが、時々、ふわふわとした優しいものが 私の体を包み込むのが分かります。 それは、お母さんの温かい手でしょうか? お母さんの心臓の音は、まるで心地よい子守唄。 ドクンドクと響く鼓動が、私…

目的地のない散歩道

夏の終わりを告げるような風が頬にあたる。 静かな街角には、枯れ葉がこぼれ落ちていた。 今日はどこへも行かずに、ただ何となく、気の向くままに歩こう。 そんな思いが、ふと思い浮かんだ。 いつもの通勤路を少しだけ外れて、細い路地裏へと足を踏み入れる…

永遠を求める心

夜空を見上げ、少年は深く息を吸い込んだ。 無数の星が瞬き、まるで彼に語りかけてくるようだった。 小さい頃から、少年は星に特別な感情を抱いていた。 永遠に輝き続ける星のように、自分も永遠に生き続けたい、と。 成長するにつれ、彼の願いは星だけに留…

密室の部屋

ある豪邸の書斎で、有名な小説家が殺害された。 部屋は密室状態。 最後に会ったのは、被害者の親友である鈴木。 発見したのは、家政婦の佐藤。 鈴木も佐藤も動揺しながらも、アリバイを主張する。 明智は現場に駆けつけ、じっくりと部屋を見渡す。 書斎には…

すぐやる男

東京の片隅にある小さなデザイン事務所で働く、彼は、 周囲から「すぐやる男」と呼ばれていた。 それは決して彼の性格がせっかちだからというわけではなく、 彼の中に深く根ざした、ある信念があったからだ。 「すぐにやらなければならないものは、すぐにや…

人生の羅針盤

60歳を過ぎた老練な教師は、 いつものように黒板の前に立った。 今日の授業は少し趣向が異なり、教科書ではなく、 人生の羅針盤となるような言葉を生徒に贈りたいと考えていた。 「皆さんは将来、どんな大人になりたいですか?」 教師の問いかけに、生徒たち…

父からのスタンプ

リビングでくつろいでいると、スマホが震えた。 メッセージを開くと、父から届いていた。 いつものように「元気か?」という問いかけとともに、 今日は特別に、動物のキャラクターが ハートを飛ばしているスタンプが添えられている。 そのスタンプを見た瞬間…

東と西が一つになった日

かつて、繁栄を極めたこの国は、東西に分断された。 長い間、対立し、壁で隔てられた東の国と西の国。 それぞれの文化や価値観は異なり、互いを敵視してきた。 しかし、ある出来事をきっかけに、両国の人々は対話と理解を深め、 ついに一つの国として再統合…

豚骨一筋、家族の味

福岡の路地裏にひっそりと佇む『豚骨源』。 その暖簾をくぐると、豚骨スープの芳醇な香りが食欲をそそる。 この店の店主、源太は、豚骨ラーメン一筋の職人だった。 源太の店は、決して広くはない。 カウンター席が数席と、小さなテーブルが一つ。 しかし、常…

メガネからの卒業

18歳になった朝、 彼女はいつものようにメガネをかけて鏡の前に立った。 しかし、今日は何かが違う。 いつも通りの曇ったレンズに、 自分の顔がぼんやりと映る。 何度もレンズを拭き、顔を近づける。 それでも、視界は変わらない。 「また、視力悪くなったの…

宅配ピザが届く日

「ピンポーン!」 けたたましいチャイムの音に、 リビングでゲームに夢中だった少年はハッと顔を上げた。 心臓がドキドキと高鳴る。 そう。今日は待ちに待ったピザの日だ。 窓の外を覗き込む。 そこには、赤いバイクに乗ったピザの配達員の姿が。 大きなピザ…

招き猫の冒険

「ふぅ、今日も一日お疲れ様。」 いつものように、店の明かりが消え静けさが訪れる。 招き猫の私は、レジカウンターの上から見下ろす。 今日はいつもよりお客さんが少なかったな。 少し寂しいけれど、明日こそはたくさんの人が来てくれるだろう。 そう思って…

最後の夜

深い森の中に佇む古びた小屋。 その小屋に一人の男が閉じこもっていた。 彼は数日前、森の中で 犬に噛まれてしまい、 狂犬病を発症したらしい。 最初は、ちょっとした 熱と倦怠感だった。 しかし、日ごとに症状は悪化し、 喉が渇き、光が眩しく、 そして、奇…

黄ぶな

私は、実家の栃木県にある祖母の家に帰省した。 広々とした庭には、昔の思い出が詰まった遊具があり、 懐かしい香りが漂っていた。 祖母の家には、いたるところに手作りの品が飾られていた。 その中でもひときわ目を引いたのが、 玄関に吊るされた黄ぶなだっ…

炎に消えた夢

この町の片隅に佇むカレー屋「スパイス夢」。 その店内には、どこか懐かしい香りが漂っていた。 店主は、スパイスをふんだんに使ったカレーを作り、 地域の人々に愛されていた。 ある夜、町ではデモが行われた。 そして、その影響から突如として火災が発生し…

我が家は畳屋

薄暗い畳工場の中で、息子は古びた畳を手に、 物言わぬ父親を見つめていた。 かつては活気に満ちていた畳工場は、 今では埃っぽい機械と、積み上げられた畳が 静かに佇むだけの空間となっていた。 「お父さん、もう畳屋はやめようよ。」 息子の言葉に、父親…

万年筆と共に

茜色の空が、街を柔らかく 包み込むような、あの日の夕暮れ。 私は、大人への階段を 一つ一つ昇っていくような、 そんな感覚に包まれていた。 両親から手渡されたのは、 深紅の漆が美しい万年筆だった。 重厚感のあるその姿は、 まるで私の一生を 共に歩むパ…