春の息吹が心地よいある日、
栞はいつものようにスマートフォンで日記をつけていた。
今日の出来事、感じたこと、そして何より、彼のことを。
彼の笑顔、優しい声、一緒に過ごした時間…
デジタルの画面に映し出される文字は、
栞の心の奥底に眠る感情を映し出していた。
しかし、栞の心には、どこか満たされないものがあった。
それは、デジタルの文字が持つ冷たさ、
そして、大切な思い出をより鮮やかに刻みつけたいという願い。
栞はふと思い出した。
子どもの頃、カラフルなペンで日記帳に気持ちを綴っていたあの頃を。
「やっぱり、手書きの日記がいいかも…」
栞はそう呟き、後日書店の文具コーナーへと足を運んだ。
様々な種類のノートや手帳が並ぶ中、栞の目を引いたのは、
少しレトロなデザインの革製手帳だった。
しっとりとした手触りの革と、滑らかな紙の質感が、栞の心を掴んだ。
その夜、栞は新しい手帳を開いた。
万年筆のインクが紙に吸い込まれていく感覚、かすかに香るインクの匂い。
デジタルとは全く異なる、アナログならではの温もりが、栞を包み込む。
「今日、新しい手帳を買ったんだ。彼がくれたプレゼントすごく嬉しかった。ちょっと今日は言い過ぎちゃった。彼の笑顔が愛おしい。」
栞は、その日あったことを丁寧に書き始めた。
彼の名前を書くたびに、頬がほんのり赤くなる。
デジタルの日記では感じられなかった、
高揚感と緊張感が、栞を満たしていく。
少しずつ、栞の日記は、ただの記録から、
栞と彼の物語へと変わっていった。
デートの思い出、彼との食事、一緒に見た映画の感想…。
栞の心は、手帳に書き込まれた文字とともに、
彼への想いで満たされていった。
ある日、栞は勇気を振り絞って、手帳に気持ちを綴った。
「彼のことが、本当に好き。一緒に未来を歩んでいきたい。そう心から思っている。」
何度も何度も読み返し、赤面しながらページを閉じる。
栞の心は、高鳴る鼓動と、幸福感でいっぱいだった。
それから数日後、栞はいつものように彼と会った。
いつものように、楽しい時間を過ごした後、
栞は深呼吸をして、彼に手帳を見せた。
「あのね、実は…」
栞は、緊張しながら、手帳に書いた言葉を伝えた。
彼の瞳は、驚きと感動で輝いていた。
「僕も、栞のことが大好きだよ。」
「良いことも、悪いことも、人生を共に歩んでいこう。」
彼の言葉に、栞の心は満開の花のように咲き誇った。
紙の温もりと、手書きの文字。
それは、二人の恋を育む、かけがえのない宝物になった。
やがて二人の恋は、順調に進み、結婚の約束を交わした。
結婚式の日、栞は、彼との思い出が詰まった手帳を手に、
新たな章をスタートさせた。
「彼女として、たくさんの思い出をありがとう。」
「今日から私は妻として、新しい人生を始めます。」