それは、街の一角にひっそりと佇む、
こじんまりとしたカフェだった。
大きな窓からは柔らかな陽光が差し込み、
店内はどこか懐かしい木の温もりと、
ほんのり漂うコーヒーの香りが心地よい。
私は、新しいカフェを開拓しようと、この店を訪れた。
ショーケースに並んだ美味しそうなケーキに目を奪われながら、
迷わずラテを注文した。
テイクアウトのカップを受け取り、
財布を出して支払いを済ませようとした時、
不意にハンカチを落としてしまった。
慌てて床に手を伸ばそうとしたそのとき、
誰かの手が私の前に差し出されていた。
「はい。」
澄んだ声に顔を上げると、
そこには笑顔の素敵な男性が立っていた。
彼の瞳は、カフェの温かい照明に照らされて、
キラキラと輝いていた。
「あ、ありがとうございます。」
私は慌ててハンカチを受け取り、深々と頭を下げた。
「いえいえ。気を付けてくださいね。」
彼はそう言うと、にこやかに微笑んだ。
そしてそのとき、彼は私にウィンクをした。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
しかし、彼の明るい笑顔と、そのウィンクに、私の心はときめいた。
それからというもの、私はそのカフェに通うようになった。
もちろん、彼が来ることを期待して。
ある日、私は勇気を振り絞って、彼に声をかけた。
「あの…」
「以前はありがとうございました。」
彼は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔に戻った。
「あの、もしよろしければ、今度、一緒にコーヒーでもいいですか?」
「もちろんです。嬉しいです。」
彼はそう言うと、名刺を差し出した。
それから私たちは、毎週のようにそのカフェで会うようになった。
彼は、穏やかで優しい性格で、一緒にいると心が安らぐ。
彼の笑顔を見るたびに、あの日のウィンクを思い出した。
秋の訪れを告げる、涼しい風が吹き始めた頃、
私たちは、テラス席で朝の時間を楽しんだ。
「じゃあね。今日も頑張ろうね。」
そう言って、いつものように店を出ようとしたとき、
「実は!・・・実は、あの日、君に一目惚れしたんだ。」
私は彼の言葉に、思わず顔を赤らめた。
「君と出会えて良かった。」
私の中で時間が止まった。
そして気が付いた時には、
私は手に持っていたかばんを床に落とし、
彼の元へ駆け寄り・・・頬にキスをしていた。
あの日のウィンクは、ただの偶然ではなく、
私に気持ちを伝えてくれるための、
彼の小さなメッセージだったのかもしれない。
いや。きっとそうなんだ。