popoのブログ

超短編(ショートショート)

甘いキス

久しぶりに帰った地元。

懐かしい街並み、

懐かしい風景が目に飛び込んできた。

 

私の目にふと留まったのは、

学生時代に通っていた学校の校舎。

懐かしさに、自然と足が校舎裏へと向かった。

 

当時は、この場所で彼とよく待ち合わせをした。

「おつかれ。」

その声を聞くたびに私はドキドキした。

 

夕日が染める空を背に、

こっそりとした彼とのキス。

その甘いキスにときめいたあの頃。

あの頃の緊張が、

まるで昨日のことのように鮮やかに蘇る。

 

私は校舎裏の壁に寄りかかった。

当時の彼の温もり、甘い香りの記憶が蘇り、

思わず唇に微笑みが浮かぶ。

 

あの頃の私は、世界で一番幸せな女の子だった。

 

しかし、卒業と同時に彼は遠くへ旅立ってしまった。

連絡を取り合うこともなく、

年月が経つうちにあの頃の記憶も薄れていく。

 

それでも、この場所で過ごした時間は、

私の心に深く刻まれている。

あの甘いキスは、忘れられない宝物かも。

 

校舎の隅に目をやると、

あの頃に刻んだ名前があった。

「まだあるんだぁ」

笑顔で刻んだ名前。

真っすぐな線ばかりで、

とても綺麗とは言えない名前。

ふざけ合う私たちの姿が、

まるで昨日のことのように鮮やかに蘇る。

 

夕暮れの風を感じながら、私は静かに目を閉じた。

彼の声が聞こえるような気がして、思わず唇を震わせた。

 

「会いたかった…」

 

彼の声が聞こえたような気がした。

でも、それは私の空耳だった。

 

昔の彼と・・・という意味ではなく

 

あの甘いキスをもう一度味わいたい。

 

あのトキメキをもう一度。

 

そう思わずにはいられなかった。

 

そんな淡い希望を抱きながら、

夕暮れの街並みは、静かに色を変えていく。