popoのブログ

超短編(ショートショート)

私に出来ること

「緊急速報」

その言葉を聞いて私は車を走らせた。

数時間後、目的の場所に到着する。

崩壊したビル。家屋。焼けた住宅街。

私はただその場に呆然と立ち尽くした。

「わざわざ来てくれたのか?」

声の方を振り向くとマフラーを巻いて

長靴を履いた老人がいた。

「大丈夫ですか?」という

ありきたりな質問しかできなかった。

「お嬢さん。大丈夫に見えるか?」

私はその回答に返す言葉がなかった。

お爺さんは瓦礫を持ち上げた。

「ここがわしの家だ。」

そう言われた場所には建物などなかった。

 

「おじいちゃん!」

子どもの声が聞こえた。

小さな体で走ってきた。

そして飛びかかるようにお爺さんに抱きついた。

涙を流しかけていたお爺さんは笑顔になった。

「危ないから体育館に戻っていなさい。」

子どもは首を横に振る。

そして手袋をした小さな手で瓦礫に触れる。

私は咄嗟に動かすのを手伝った。

「あんたも危ないぞ。どっか行きなさい。」

「いいんです。私は手伝いに来ました。」

私は子どもと一緒に瓦礫を動かし続ける。

 

「あった!」と子どもが叫ぶ。

手に取ったのは一本のキセルだった。

「はい。」お爺さんに渡す。

そのキセルの意味が私にはわからない。

でもきっと、この子供にとっては

“おじいちゃんの大切なもの“なんだろう。

「一瞬だ。家族でTVを見ていたら

 突然揺れ始め、恐ろしい気持ちになった。

 慌てて家を飛び出すのが精いっぱいだった。

 どんな言葉をかけられても

 今は辛い気持ちにしかならん。」

お爺さんはキセルを受け取った。

「でもな。この子たちには

 この経験を活かしてほしい。」

お爺さんは子どもの頭をなでる。

「実は。実は私の家は15年前に流されたんです。

 今もその時の怖さと悲しさは消えません。」

「そうか。そうだったか。」

 

“なんだっていい!”

私ひとりで何かが変わるとは思わない。

でも、私ひとりすら動かなかったら、

必ず何も変わらない。

“私に出来ることはないですか?”

 

「おねえさん。」

そう言って子どもが私に手渡したのは

笑顔で写る家族写真だった。

 

助けてくれる人がいる。

支えてくれる人がいる。

その事実だけが“何とか頑張らなくちゃ”って。

 

“きっと明るい未来がある”

命ある限り、そう信じて前を向くしかない。

暗い絶望と悲しみの中、私はあの時そうだった。