popoのブログ

超短編(ショートショート)

悲しみの先へ

 

今から数十年前。

臨海地方を震源とする巨大地震が発生した。

街は一瞬にして瓦礫の山と化し、多くの人々が命を落とした。

 

そんな中、消防士の一人の男は仲間と共に、

懸命な救助活動を行っていた。

倒壊したビルの下敷きになった人々、

燃え盛る炎に包まれた家屋から逃げ遅れた人々、

一人でも多くの人命を救いたいという一心で、

彼は危険を顧みずに現場へと飛び込んでいく。

 

彼は、5年間消防士として勤務している28歳の青年。

正義感と責任感が強く、

常に誰かのために尽くす優しい性格である。

 

地震発生直後、彼は真っ先に現場へと駆けつけた。

倒壊したビルの下敷きになった少女を発見する。

 

「がんばれ!今助ける!もう少しだ!がんばれ!」

 

彼は瓦礫を懸命に撤去し、少女を救い出すことに成功した。

 

その後、炎に包まれた家屋から逃げ遅れた親子を発見する。

 

「がんばって!今行きます!がんばって!」

 

彼は躊躇することなく、燃え盛る炎の中へと飛び込み、親子を救い出す。

 

しかし、彼は救助活動中に重傷を負い、

意識を失ってしまう。

 

搬送された病院。

そこへは、話を聞きつけ、

彼が助けた多くの人たちが駆けつけた。

 

(がんばって!大丈夫!助かるわよ!)

 

みんなが強く願った。

 

しかし、彼の命は助からなかった。

 

多くの人が涙を流した。

多くの人が悔しがった。

(なぜなの。)

(どうして。)

こんなに悲しいことがあるだろうか。

 

一人の男性に助けられた多くの人たち。

しかし、その彼は命を落とした。

 

それから、長い年月が経ち、

彼の勇気ある行動はひとつの物語として語り継がれ、

命の象徴として、青い羽根が町中に配られる。

 

災害。

それは非条理なものだ。

それは悲しみを生む。

しかし私たちはその世界でいきる。

だからこそ、懸命に生きる術を学ばなければならない。

だからこそ、命の尊さに気付く必要がある。

 

私たちが出来ることは何か。

私たちが出来たことは何かなかった。

 

同じ過ちを少しでも繰り返さない為。

同じ後悔を少しでも繰り返さない為。

 

私はあの時、助けられた少女。

「ありがとう」

と言葉をかけることもできない。

 

もう今では髪の毛はすっかり白くなった。

それでも、私の命がある限り、

一人でも多くの人に、命の尊さを伝えていきたい。