幼い頃、家は貧しく、
お菓子を食べる機会は少なかった。
それでも、毎月一回だけ、
母が駄菓子屋に連れて行ってくれた。
その日だけは、どんなお菓子でも好きなだけ選んで良い
という特別な日だった。
駄菓子屋の前に立つと、
目移りするほどたくさんの駄菓子が並んでいた。
でも私が選ぶのは、
いつも同じチョコレート菓子だった。
「またそれでいいの?」
「好きなもの選んでいいのよ?」
「ううん。これがいい!」
私は首を振って、笑顔で答えた。
毎月一回だけ買ってもらえるお菓子。
私にとっては充分だった。
私にとっては特別なものだった。
そして何より、
そのお菓子を食べる時間は、
何よりも幸せな時間だった。
大人になった今、
当時の生活は貧しかったはずなのに、
なぜか楽しい思い出ばかりが蘇る。
「ほら。またチョコレートがほっぺについてるわよ。」
「おかあさん!どっちの手にお菓子があると思う?」
「おっきい順にならべてるの!」
「あ~んして。」
それは、あの頃のお菓子が、
味だけではなく、たくさんの思い出を
運んでくれるからなのだろう。
幼い頃、毎月買ってもらえるお菓子は、
私にとって唯一の楽しみだった。
それは、ご褒美であり、幸せであり、
お母さんとの思い出だった。
それは、これからもずっと変わらない。